推し活翻訳2冊目。Wildoak、勝手に邦題「雪ヒョウに出会った森」
原題:Wildoak(Chicken House)
原作者:C. C. Harrington
勝手に邦題:雪ヒョウに出会った森
概要と感想
物語の舞台は1963年のイギリス。マギーは小さなペットたちを大切にする心優しい女の子ですが、学校では、吃音のせいでつらい日々を送っています。今日も先生にあてられたとき、みんなの前でうまく話せないのが怖すぎて、手に鉛筆をつきたてて保健室に逃げこんでしまいました。動物や虫と話すときは、すんなり言葉が出てくるのに……。そう、小さなころ、ロンドン動物園でトラにすらすらと話しかけて両親を驚かせたとき以来。だから、部屋でネズミや、キジバトや、カタツムリや、クモや、ワラジムシたち(もちろん、みんな素敵な名前があります)と話しているときがいちばんほっとします。
お父さんは、マギーの吃音を治すために矯正施設に入れようとしますが、お母さんは静かな環境が必要なのかも、とコーンウォールに住む(ほとんど会ったこともない)おじいちゃんの家で冬を過ごせるようにしてくれます。
同じころ、ハロッズデパートのペットショップから買われていった雪ヒョウの子どものランパスが、おじいちゃんの家近くの森に捨てられます。美味しい餌をくれる人はいつ来るのでしょう。暖かな寝床はどこにあるのでしょう。ペットとしての暮らしに慣れたランパスは、森の中では自分の身を守ることすらできません。
森でランパスに出会ったマギーは、おじいちゃんに相談できないまま、たった一人で助けてやろうと優しく声をかけ、距離を縮めていきます。ところが、運悪くランパスを見かけた人の話に尾ひれがついて、町は、森に棲む恐ろしい怪物の噂で持ちきりになります。そのうえ、森の地主が開発業者に木の伐採を命じたせいで、ランパスがつかまってしまうという大ピンチに。多くの生き物がすむ豊かで貴重な森も危機にさらされます。
次第に心を通わせるようになったマギーとおじいちゃんは、おじいちゃん自作の「秘密兵器」でランパスを奪還するのですが、これがもう、ドキドキ。ランパスの救出を通じて心に眠っていた勇気をしっかり自分のものにしたマギー。けれど、吃音はあいかわらずで、このままでは迎えに来たお父さんに恐ろしい矯正施設に入れられてしまう……。
でも、お父さんの本当の気持ちがわかって、マギーは自分の思いこみに気づきます。短いシーンですけど、ちょっとハッとさせられました。大人が子どもに正直に心を打ち明ける、大切なことですし、児童書ではよくある場面かもしれませんが、きっとすごく難しい。自分はできているだろうかと自省しました。
そうそう、忘れてはいけないのがランパス。別れはちょっぴり切ないけれど、安全に暮らせる場所が見つかります。
生きづらさを抱えた少女のまっすぐな思いが、美しく貴重な生き物や古い森を救う物語は、このあと、時代をずっと下ってラストを迎えます。いや、ほんと、ぐっときました。自分はこのままで、ありのままでいいんだという気づきと勇気を与えてくれる作品で、悩みを抱えるたくさんの人たちに読んでもらいたい。マギーとランパスの視点から交互に語られる構成で、物語の世界にすうっと入っていけるところもおススメです。
ロンドンの老舗書店ハッチャーズで勧められ、帰りの飛行機で一気読みするほど気に入ったのに、ここで紹介しようと原書を探しても見つからない。うっかり断捨離の荷物にまじってしまったのかも……くすん。原作者のウェブサイトによると邦訳が出るみたいなので、それを楽しみにじっと待つか、もう一回、買っちゃおうかな。
受賞歴:シュナイダー・ファミリーブック賞
※上の画像は、Chicken House版、Kate Hickeyさんの装画から。