22.言葉の強度〜シロナミ『金星』感想書評〜
2024年1月14日の文学フリマ京都で隣のブースで買わせていただいた日記本。道いく人に片っぱしから声をかけまくるバナナのたたき売り実演販売スタイルだった我々と違い、自然と人が集まり滑らかに手渡されていく姿勢が美しいくらいにスマートで、こうありたいと思った。
あまりにも良すぎる。
シンプルな感想になってしまったが、本当に良い。買わせていただいたとき、日記本と聞いて背筋が伸びた。今回自分が販売したエッセイも、東京4年間大阪3年間のいわば回顧録で、広義の日記本のようなものだ。日々の生活、流れていく時間から思想を柄杓で掬うような営みが日記だと思っていた。そう思うと如何に流れる水を質の高いものにするかを自分は考えがちだが、本書を読んでその考えは恥ずかしいと思った。本書から読み取れる時間の流れは確かに豊かで、それ以上に、日々や言葉に対しての姿勢・態度があまりにも誠実であり、それこそが素晴らしい魅力なのである。
抒情的かつアナロジカルな言葉選びが抜群で、脳みそが拡張されるような感覚に溺れる。言葉と編み物、宇宙と石鹸が連想されるには、それぞれの概念が箪笥のような強固な引き出しにしまわれているのではなく、風や水のように流動的で遊動する必要があるように思う。故に、本書を読むと自分の心の中にある概念に翼やヒレが生え、垣根を越えて自由に動きまわるような開放感が生まれる。日々の出来事や思想を心の大切な引き出しにしまう営みも素敵だが、心を空や海のようなオープンスペースと捉え、思考や概念を放牧して衝突や融合を楽しむのもまた面白いと思わせる。
言葉や時間に誠実に真摯に向き合う著者の言葉には、並々ならぬ強度がある。それはあたかも日々の鍛錬を欠かさない体操選手のパフォーマンスのようだ。かつて習っていた弓道や茶道の振る舞いにも似ている。基礎的な動きのたゆみない反復からしか生まれない美しさ。それは時間の持つ重みであると同時に、その時間を重ね続けた人格の質量だとも思う。
流れる時間の質云々の前に、自分の柄杓を深く長いものにしたいと思った。言葉と時間、そして思想と人間に真摯にありたい。買わせていただきありがとうございました。
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