ヱヴァンゲリヲンで学ぶ日本語の歴史
正月。
映画を観ようとして、気づきました。
『新劇場版』のエヴァンゲリオンって、ヱヴァンゲリヲンなんですね。
『エヴァ』と『ヱヴァ』の違いを調べました。
同じ作品なのに、なぜ表記が違うのか?
ネット上には様々な考察がありました。
しかし私は、
という点に疑問を感じたのです。
そこで!
一緒に『エ』と『ヱ』の違いを勉強しませんか?
実は『エヴァ』と『ヱヴァ』の違いから、日本語の歴史が学べます。
❶平仮名表記と発音
『エ』を平仮名で表記すると『え』です。
『え』の発音は[e]です。(←当然のことを書いていますが、コレ重要)
『ヱ』を平仮名で表記すると『ゑ』です。
そう、『ヱ』の正体は『ゑ』なんですよ。
『ゑ』なら、それなりに見かけたことがあるのではないでしょうか。
『ヱ』の発音は?
と思った方、それが自然です。
でも、ちょっと待ってください。
なぜ、同じ[e]なのに、文字が2つ(え・ゑ)存在するのでしょうか?
さぁ、オモシロクなってきましたよ。
❷日本語の母音は、本当に5つ?
平仮名は平安時代に誕生しました。
今からする話は、平安時代より前の奈良時代にさかのぼります。
平仮名が生まれる前、奈良時代では万葉仮名と呼ばれるものが使われていました。
万葉仮名とは、『冬』を『布由』と表す文字のこと。
平仮名とはまったくの別物で、次の特徴を持ちます。
上の画像の場合、『布』も『由』も『冬』とは意味の関係がまったくありません。
ただ、漢字が持つ音だけ借りて『冬』を『布由』と表現しています。
万葉仮名は、見かけ上は漢字と同じなのですが、役割はまったく違うものです。
万葉仮名は、今でも地名で目にすることができます。
ここで重要なのが、
ということです。
[a]と発音する文字を書きたいときは、次のどの万葉仮名を使ってもよかったのです。
[a]以外の[i]や[u]も同じです。
つまり、一つの音に対して、複数の万葉仮名が使われていました。
あるとき、オモシロイことが発見されます。
『粉』『恋』をあらわす場合の[ko]は、
などが使われました。
一方、『腰』や『米」の[ko]は、
などが使われました。
同じ[ko]であるはずなのに、厳密に使い分けられていたのです。
なぜ、厳密に使い分けられているのか?
学者たちは考えました。そして、
という考えにいたります。
発音が違わないと、使い分けることは困難だからです。
(何かの違いがないと、規則的に使い分けることは難しい)
この使い分けは「ko=オ段」だけではなく、「イ段」「ウ段」でも見られました。
現代の日本語の母音といえば、
の五音、というのが常識です。
しかし、奈良時代以前は、
の八音あったのです!
ただ、
だと見かけ上は、同じ『イ』が2つあるように見えます。
したがって、「甲」「乙」に分類され、
とされました。
山口仲美さんの著書『日本語の歴史』に、五十音図に似たわかりやすい表があります。
母音が多い分、今の五十音(正確には五十音ではないが)より、発音が多いです。
ちなみに、「甲」「乙」に分類したのは橋本進吉先生です。
では、現在では失われた発音――たとえば、「2つめの[ko]」は、どのように発音されていたのでしょうか!?
それは明らかになっていません。
残念で仕方ない反面、ミステリー小説のようなこの謎に、浪漫を感じます。
謎はまだあります。
この謎の答えが『え』と『ゑ』の関係に関わってきます。
❸発音が減った理由
そもそも、音が違うことの意義は何でしょうか?
会話するとき、私たちはの言葉の違いを「音の違い」で認識します。
たとえば、『茂』と『夜』。
音が違うので、耳で聞いた場合も違いを認識できます。
ただ、同じo段なので、[モ]と[ヨ]の音は似ています。
確実に相手に伝えるためには、丁寧に発音しなければなりません。
しかし、次のように音の数が増えれば、どうでしょうか?
『茂』と『夜』を聞き間違える人はいないでしょう。
音の数が増えれば、いい加減に(テキトーに)発音しても伝わります。
突然ですが、冷蔵庫を足で閉めたことってありませんか?
または、扇風機のボタンを足で押したことはありませんか?
私は、あります😱
だって、楽なんですもの。
人間、どうしても楽な方向に流されてしまいますから・・・・・・。
発音も同じです。
楽な方向に流されます。
言葉が「一音」しかないとき、当時の人は丁寧に発音していました。
しかし音数が増えたことで、手を抜いても伝わるようになり、発音を怠けるようになったのです。
我々現代人だって、「丁寧」を「ていねい」なんて一音ずつ発音せずに「テーネー」と怠けて発音しますよね。
母音に話を戻します。
八音あった母音、
は、発音が統合され(発音が怠けられ)、
に落ち着きました。
『ゑ』も同じ運命をたどります。
『ゑ』は、もともと[we]と発音されていました。
しかし、『ゑ』と『え』を区別して発音する必要性がなくなり(単語の音数が増えたため)、[we]という音は[e]に統合されます。
ここで、[we]と発音してみてください。
なんとなく発音するのではなく、「唇がどのように動くか」意識しながら発音してみてください。
どうです?
唇、めっちゃ動くでしょ?
[we]と発音するのは負担が大きいのです。
負担が少ない[e]に統合されるのは自然な流れでした。
そして、同じ発音の文字は1つだけで十分です。
文字としての存在意義が失われた『ゑ』は使われなくなりました。
『ゐ』も同じ流れで『い』に統合されました。
『を』の場合、発音は『お』に統合されましたが、「〇〇を食べる」という助詞としての使い方の便宜上、文字だけ残りました。
一人でも多くの方に『日本語ってオモシロイな』と思っていただけたら嬉しいです!
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見出し画像の写っている漫画は、『【愛蔵版】新世紀エヴァンゲリオン』(
貞本 義行:著 カラー :原著)です。