建築ビジュアルCG制作・動画楽曲選択 ~オリンピックに際してYMOを思う~
こんにちは。STUDIO55技術統括の入江です。
いよいよパリ五輪が近づいてきました!
今回はオリンピックの話題を交えながら、動画制作に欠かせない"音楽"についてお話しします。
映像制作における選曲の重要さ
建築ビジュアルやプロダクト制作など、映像制作の成否は、8割方 音楽の良し悪しで決まると言っても過言ではありません。
昔、映画編集に携わったとき、「良い映画かどうかは音を消して観ると分かる」とアドバイスを受けたことがあります。音は世界観に大きな影響を与え、音がない映像は途端に退屈に見えることがあります。音を消すことで、映像そのものの力がはっきりと分かります。
つまり、このアドバイスは、音が聞こえてくるような映像を作るべきだということです。また音楽は、映像が浮かぶ音楽を使用するべきです。
そのような力ある映像と音楽が合わさった時に、想像を超える増幅効果が生じます。
言うまでもありませんが、映画でいえば「ロッキー」「ジョーズ」「スターウォーズ」、”ジブリ映画” もそうです。名作と呼ばれる映像には常に素晴らしい音楽が1セットです。
音楽ライブラリサイト紹介
映像に合った音楽(正確には ”映像を増幅させる音楽” )を捜すには、先ずはどのような音楽ライブラリサイトがあるのかを知っている必要があります。
こういった仕事をしていると、テレビCMを見ていても(特にクリエイティブなCMで使われている曲など)、どのサイトのものかが分かることがあります。テレビを見ながら「あの曲はこの映像の世界観にぴったりだ」と勝手に感心したりしています。
代表的なストックオーディオサイトをいくつか挙げておきます。
① PremiumBeat
高品質のロイヤリティフリー音楽を提供しており、プロジェクトに合った幅広いジャンルの音楽を見つけることができます。
② AudioJungle
Envato Marketの一部で、数多くの音楽トラックやサウンドエフェクトを手頃な価格で提供しています。
③ Pond5
音楽だけでなく、映像や画像なども含む豊富なメディアコンテンツを扱っています。
④ Epidemic Sound
ユーチューバーやコンテンツクリエイターに人気のサービスで、ロイヤリティフリーの音楽と効果音を提供しています。
⑤ Artlist
年間サブスクリプションモデルを採用し、商用利用可能な高品質の音楽を提供しています。
⑥ Musicbed
映画、広告、オンラインコンテンツ向けの高品質な音楽を扱っており、プロフェッショナルなクリエイターに人気です。
⑦ Soundstripe
定額制で無制限に音楽をダウンロードでき、様々なプロジェクトに対応しています。
⑧ Storyblocks
音楽、映像、画像などのメディアコンテンツを定額制で提供しているプラットフォームです。
これらのサイトは、動画制作や広告、ゲーム開発など様々なプロジェクトにおいて、手軽に音楽を入手するために利用されています。
Premiun Beat.com
中でも個人的に最も使用率が高いのが「Premium Beat.com」です。
ジャンル別検索や、絞り込みのキーワードで、自分の抱くイメージに素早く辿り着くことができます。
このサイトの素晴らしいところは楽曲のセンスの高さだけではなく、ダウンロードのデータ内容がじつに細やかに配慮されている点です。
1つの楽曲に対し、以下の3つの項目内容のデータがダウンロードできます。
レンジ(Lensth) : 曲の長さ=15秒、30秒、60秒
ステム (Stems) : 曲の分割=各楽器で分かれた内容
ループ (Loops) : 曲のシームレスなループ=複数パターン
レンジはCMの尺に合わせて調整されており、ステムは楽器別の音源が含まれています。ループはシームレスに繰り返せるフレーズが複数パターン用意されています。ダウンロードデータは、mp3とwavから選択可能です。
この中で、もっとも注目すべきはステムデータです。
曲を構成する楽器別の音源が入手できるため、楽曲のアレンジや映像尺に合わせた編曲がしやすくなっています。例えば、「この間奏部分ではビートだけをループさせておこう」といったアレンジ編集が容易に行えます。
1曲ごとの購入に関しては、以下の内容です。現在、円安が進んでいるため、さらに高価になりますね (苦笑)。
ある程度の数を見込んで購入を検討する場合は、ライセンスパックがあります。
最近では、トップページに「YouTube」や「TikTok」コンテンツクリエイター向けのカテゴリーリストが追加されました。今年はパリ五輪を目指した「オリンピック」にカテゴライズされたページも用意されています。
このようなクリエイター向けのサポートが充実しているのが嬉しいところです。
リオ2016⇒東京2020⇒パリ2024
パリオリンピック「光の都」の祭典
いよいよパリ五輪の開催が間近になりました。
第33回オリンピック競技会は、7月26(金)から8月11日(日)までの17日間、フランス・パリを中心に開催されます。
パリでの開催は、1900年、1924年に続き3回目です。
現在では、FIFAワールドカップなど華やかなスポーツイベントが多数あり、オリンピックの印象も以前とは変わりつつあります。しかし、やはりオリンピックは最大のスポーツの祭典です。スポーツを通じて世界中の国々と地域が一堂に会し、平和と友好の精神を育む「スポーツと平和の祭典」です。国を超えて競い合うスポーツマンシップの発露の場であり、出場選手だけでなく、メディアやクリエイター、政治的にも注目を集めます。
特に開会式や閉会式などは、国を挙げてのイベントとして大きな見せ場となります。
今回の開会式はスタジアムではなく、パリ中心部を流れるセーヌ川を舞台にした大規模なイベントとして実施される予定だといいます。これはオリンピック史上初の試みで、どのような斬新な演出がされるのか楽しみです。
パリは「光の都」として知られ、多くの歴史的建造物や博物館、美術館がある文化的影響力のある国です。今回は、そういった名所での競技会場が大きな話題となっています。フランスの豊かな文化と歴史を活かし、パリの有名なランドマークを競技会場として利用する計画です。
例えば、エッフェル塔の前でビーチバレー、シャン・ド・マルスでサイクリング、ヴェルサイユ宮殿の庭園で馬術など、観光名所での競技が予定されており、競技自体が特別な体験となり、観客にも忘れられない印象を与えるものとなるでしょう。
フランス パリ出身のイラストレーター、ウーゴ・ガットーニ(Ugo Gattoni)氏が手掛けたパリ2024オリンピックのアイコニック・ポスターは、2000時間もの時間を費やして、すべて手書きで精緻に描かれています。
この名所を眺望する構図デザインのポスターを始め、パリオリンピックのグッズは、下記ウェッブサイトで購入可能です。
パリオリンピック・パラリンピックのマスコットキャラクターのフリージーズ (The Phryges)は、フランスの自由の象徴として知られる三角帽(フリジア帽)がモチーフです。
昔懐かしい雪印乳業(現. メグミルク)のチーズ(チーズキャッチ)の広告で、1980年代に放送されていたスマーフもこれをかぶっていましたね。
東京オリンピック「未来都市」の祭典
今から3年前の東京2020オリンピックは、まだ記憶に新しいところです。
コロナ禍という大変な状況を乗り越えて実施され、誰もが忘れられないものとなりました。1964年大会以来、実に57年ぶりとなった東京2020オリンピックは、パンデミックの影響で1年遅れ、2021年7月23日から8月8日までの17日間にわたって開催されました。
当初、2016年 リオ オリンピックの閉会式で行われたフラッグハンドオーバーセレモニー(引継ぎ式)で、東京オリンピックへの期待の高まりを感じたのは私だけではなかったことと思います。
この映像には非常に「力」があります。
1964年東京五輪のグラフィックを手掛けた亀倉雄策氏をリスペクトした構図、日本文化となったアニメやゲームとのコラボレーション、最先端デジタル技術であるAR(拡張現実)を使った33種目の競技表現、「おもてなし」を表現した振り付け、市松模様の東京五輪のエンブレムを表現した光のフレームワークなど、日本の魅力が満載です。特に、スーパーマリオを使ったパフォーマンスが話題になりました。
この引継ぎ式のパフォーマンスは、当初の演出チームが手掛けたものでした。
クリエイティブスーパーバイザーは、CM関係のクリエイティブディレクターとして有名な佐々木宏さんが担当しました。クリエイティブディレクターはテクノロジー表現を専門とする菅野薫さん、チーフ映像ディレクターはミュージックビデオやCMで有名な児玉裕一さん、チーフアートディレクターは多くの広告やCMキャンペーンを手掛ける浜辺明弘さんです。チーフテクニカルディレクターでありメディアアーティストの真鍋大度さんは、AR(拡張現実)を使って33種目の競技を表現しました。クリエイティブスーパーバイザー兼音楽監督は椎名林檎さん、そして総合演出兼演舞振付はPerfumeの振付などで有名なMIKIKOさんが務められました。
その後、東京五輪の開閉会式の演出チームには数度の変更があり、そのドタバタ劇ともいえる騒動が報道されたのは非常に残念でした。
YMOの楽曲
民間の声として、東京2020五輪の音楽にはYMO(Yellow Magic Orchestra)の楽曲を使用するべきとの意見がありました。
YMOは日本のテクノポップの先駆者であり、世界的にも高い評価を受けています。そのため、彼らの曲がオリンピックの映像やセレモニーに使用されることで、日本の音楽文化を世界にアピールする良い機会になるという意見が多くのファンや音楽関係者から寄せられていました。
YMO(Yellow Magic Orchestra)が結成されたのは1978年です。同年にリリースされた彼らのデビューアルバム『Yellow Magic Orchestra』を聞いて、子供ながらに衝撃を受けたのを今でも覚えています。『ライディーン』『テクノポリス』のシングルレコードのジャケットがありありと脳裏に浮かびます。
80年代には竹の子族が「ライディーン」で踊ったりしてましたね。(笑)
テクノサウンドの黎明期にリリースされた彼らのテクノポップは、シンセサイザーサウンドの世界的先駆者として知られていますが、YMOのすごさは、あの時代に「日本の未来イメージ」を音楽で作り出した点にあります。
日本は世界的に「デジタル先進国」として見られます。家電製品やロボット技術、自動車産業などの技術革新や、日本のアニメやゲーム産業は世界中で人気があります。
YMOの楽曲は、このような日本社会をいち早く表現した曲であったと、少なくとも個人的に思っています。
ですので、この意見には私も大賛成でした。
東京2020オリンピック映像にYMOの曲を使用したらどうなる
もし、YMOの曲が東京2020オリンピックの映像に使われていたら、どのような仕上がりになっていたのでしょうか。あのフラッグハンドオーバーセレモニー(引継ぎ式)での力ある映像と、YMOの力ある音楽が合わさった時、どのような増幅効果が生まれたのか見てみたいものです。
じつは、それを実際に作ってくれた方がいます。
ぜひともご覧ください。大音量で。(笑)
どうでしょう。「日本ってすごい国だな~」って思いませんでしたか?
まさに、東京オリンピックの「未来都市」の祭典にふさわしいイメージですね。
実際に使用された楽曲も素敵でしたが、これこそ映像と音楽の増幅する表現力ではないでしょうか。引継ぎ式での映像の印象がまた違ったものになりました。YMOの楽曲が日本の音楽文化を代表したものであることが、この映像との融合で見てもよく分かります。
それにしても、YouTubeクリエイターのChick Norman(チック ノーマン)のリミックス(編集力)は素晴らしいですね! 最高です。
Chick Norman(チック ノーマン)は、YMOの曲のリミックスやカバーで知られる有名なユーチューバーです。
彼の有名なリミックスには、「Technopolis - The Dark Prison Mix」「Behind The Mask - Made in JAPAN」「Solid State Survivor - Extended Album Ver.Plus」「RYDEEN - Return Of The XEVIOUS」などがあります。
*
オリンピック競技会は、開催国が国を挙げて作り出すエンターテインメントの世界でもあります。「光の都」パリオリンピックの次の開催国は、「自由の国」アメリカ合衆国のロサンゼルスです。2028年に開催の予定です。
世界平和が実現し、ボイコットの争論がないオリンピックこそが、誰もが望む理想の姿ではないでしょうか。その実現に向けて、選手たちの不断の努力に加え、次の4年間で世界がどのように壁を克服し変化していくのかも期待したいものです。
パリ五輪出場選手の応援に、この夏は大いに盛り上がりましょう!