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龍馬が月夜に翔んだ

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#短編小説

短編小説『歴史に名を残せた人の真実、残せなかった人の理由』

短編小説『歴史に名を残せた人の真実、残せなかった人の理由』

齊藤一は京の南のはずれにある不動堂村の新選組の屯所に着いた。

陽はすっかり暮れてしまっている。

移転してからまだ日が経っていない。

香ばしい木の香りが漂っている。

大名御殿と遜色のない立派な造り。

齊藤はこの屯所に駐在したことはない。

この屯所に移る前、西本願寺に間借りしている時に御陵衛士の一員として高台寺へ移った。

だからこの屯所には馴染みはない。

どこか余所余所しい感じがする。

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短編小説「坂本龍馬暗殺の真相(後編)」

短編小説「坂本龍馬暗殺の真相(後編)」

「ドン」

爆音が近江屋全体を揺るがした。

一瞬間をおいて二階の窓から白煙が飛び出した。

それらは疾風のごとく河原町通りを駆け抜ける。

「何だ」

近江屋の軒先で待機していた新選組の大石鍬次郎は、咄嗟に槍を手に単身近江屋に土足のまま乗り込む。

二階に駆け上がる。

硝煙の匂いが混じった灰が部屋中に立ち込めている。

何も見えない。

天井からバラバラと煤が降ってくる。

どうなっているのだ

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短編小説『初めての暗殺』

短編小説『初めての暗殺』

「抜刀」

隊長の大石鍬次郎の号令がかかる。

新選組平隊士の廣瀬は無意識に鯉口を斬った。

ずっと訓練を重ねていたおかげで自然に体が反応した。

今までの震えが嘘のように止まった。

いつも稽古で教えられているようにゆっくりと刀を抜く。

刀身が妥協を許さない現実の光を放ちながら弧を描いて、あらかじめ決められた終着点かように正面で止める。

正眼の構えを取る。

刀身が目の前で妥協の許さない直線

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新選組生き残り隊士の告白『坂本龍馬暗殺の真相』

新選組生き残り隊士の告白『坂本龍馬暗殺の真相』

新選組の屯所から戻ってくると、菊屋の二階には、藤堂平助、服部武雄の他に、高台寺の屯所から毛内有之助が駆けつけていました。

「齊藤さん、見ていましたよ。中岡慎太郎が近江屋に逃げ込んだのですね。よりによって、近江屋を選ばなくても良いのに」

「毛内さん、ご苦労様。見ての通りだ。厄介なことになった。ところで何かありました」

私ら御陵衛士は、近江屋に潜んでいる坂本龍馬を護衛するために同じ河原町通り面し

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短編小説『龍馬、斬られる』

短編小説『龍馬、斬られる』

望月弥太郎が、こいつらによって無残に切り刻まれたのだ。

望月はもう帰ってこないのだ。

あの望月はいない。

もう夜明けが近いというのに、彼は永遠の夜に閉ざされたままだ。

藤堂平助の眉間の醜い傷は、望月の恨みの証だ。

あろうことか、いま望月が私に恨みを晴らして下さいと哀願している。

龍馬の目には、知らず知らずに涙が溢れてきた。

零れ落ちた涙が、心の傷からにじみ出た血液のように畳を濡らして

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短編小説『藤堂平助、御用改めでござる』

短編小説『藤堂平助、御用改めでござる』

坂本龍馬の用心棒、藤吉は藤堂平助と服部武雄の脇差の下げ緒を確認する。

座敷に案内する際、容易に刀を抜かれて斬りかかられると困る。しっかりと巻かれていて抜けない状態なのか確認するのである。

「失礼いたしました」

そのあたり場数を踏んでいる元新選組の隊士だけあって抜け目がない。

しっかりと巻いている。

が、しかし、それは見た目だけなのだ。

「永倉巻き」

新選組の隊士が呼ぶ「永倉巻き」これ

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