シェア
大河内健志
2020年7月11日 14:17
「お龍」布団の中にいて寝つかれなかったお龍は、今確かに龍馬の声を聴いた。はっきりと、龍馬から名前を呼ばれた。夜明けのように障子から薄明かりが差し込んでいる。お龍は、障子を開けた。見事な満月。何処から聞こえるのか、清らかな鐘の音が長く尾を引いて流れている。向こうの山影から青白い光の玉がすっと上がった。一直線に満月に向かって昇って行く。そしてその青白い光は、満月の光
2020年7月10日 08:42
ここを飛び降りるしかない。龍馬は、欄干を跨ごうとするが力が出ない。頭から乗り越えようとした瞬間。龍馬に衝撃が走った。背中を力任せにこん棒で打たれたような衝撃。見ると、胸から角のようなものが飛び出した。大石鍬次郎が背後から、龍馬を手槍で突いたのだ。龍馬は、心臓を後ろから一息に差された。心臓を貫いた穂先は、勢い余って龍馬の体を突き抜けた。龍馬は、刺された衝撃で欄干か
2020年7月9日 16:25
服部武雄が、龍馬の用心棒の藤吉の強烈な羽交い絞めで落とされようとした時、抜き身の手槍を手にした大石鍬次郎が、疾風のような速さで二階を駆け上がってきた。「中岡慎太郎は何処じゃ。お前ら、ぶった斬られたくなけりゃ、大人しくしろ」奥の部屋に入ろうとするが、行く手は服部を羽交い絞めしいる藤吉がふさいでいる。「服部さん、ご無礼」大石は、羽交い絞めしている状態のまま藤吉の脇腹に手槍を浅く突き刺し
2020年7月8日 11:29
望月弥太郎が、こいつらによって無残に切り刻まれたのだ。望月はもう帰ってこないのだ。あの望月はいない。もう夜明けが近いというのに、彼は永遠の夜に閉ざされたままだ。藤堂平助の眉間の醜い傷は、望月の恨みだ。あろうことか、いま望月が私に恨みを晴らして下さいと哀願している。龍馬の目には、知らず知らずに涙が溢れてきた。零れ落ちた涙が、心の傷からにじみ出た血液のように畳を濡らしてゆく
2020年7月6日 12:51
龍馬の用心棒の藤吉は、二人の脇差の下げ緒がしっかり巻かれていて、すぐに抜けない状態にあるかを確認した。「失礼しました」しかし、二人の脇差は下げ緒がぐるぐる巻きにしているにも関わらず、すぐにでも抜けるようになっていた。これも、永倉新八が考えた「永倉巻き」である。永倉は昔から、思想とか思考には全く関心を示さず、寝ても覚めても剣術、戦術の事ばかりを考えている。実際に、新選組の戦闘の方法は
2020年7月5日 15:48
齊藤一は、菊屋の峯吉から、坂本龍馬が今は隠し部屋寝ている。今入った三人組は、十津川郷士と名乗っていて、近江屋の二階にいるとの報告を受ける。「よし、藤堂平助さんと服部武雄さんが中に入って、中岡慎太郎ら三人を外に出して下さい。あくまで、不法侵入した不逞浪士を排除するという形です」藤堂が、「もし、刃向かってきたら?」「当然、応戦して下さい」日頃無口な服部が口を開く、「相手が三人、