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私は何者か、53


はるか遠い昔、動物園で手を繋ぐ老夫婦を見たことがある。メンフクロウのケージの前で。
どんな啓示かは知らぬが、こんな夫婦なら、私も憧れる。と、思ったことがある。

第一に、メンフクロウが私の好みであることが大いに影響しているが。

手を繋ぐという行為も嫌いではない。
私にとって、あらゆる行為の中で、崇高な地位にある。


残念ながら亡夫とは、あまり手を繋ぐことはなかった。


そのかわりといっては、なんだが、今は亡き人間国宝に握手してもらったことがある。

剃刀のような指先、薄く繊細な手。
差し出す私の手をそっと包んでくれた。
ひんやりと孤高な手。ものを作り出し、人のこころに何かを記す手。印象深い。
崇高。


けれど、私は夫と手を繋ぐこともあまりなく、最期まで彼がどんな人だったのか、よくわからないままだ。


手を繋ぎ合うという行為は、こころを解かす。


私の手が、宙を彷徨う。




私は何者か



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