歳時記を旅する27〔蝸牛〕中*身を倍にしてでで虫の殻運ぶ
佐野 聰
(平成七年作、『春日』)
新見南吉の童話「でんでんむしのかなしみ」は、悲しみを越えて人を思いやろうというメッセージ。
ある日、でんでんむしは「わたしのせなかのからのなかにはかなしみがいっぱいつまっているのではないか。」と気がついて、友達のでんでんむしたちに次々にそのことを伝えるが、どの友達も「あなたばかりではありません。わたしのせなかにもかなしみはいっぱいです。」と言われる。
やがて「かなしみはだれでももっているのだ。わたしばかりではないのだ。わたしはわたしのかなしみをこらえていかなきゃならない。」と気づくことになる。(『新見南吉童話集』ハルキ文庫)
句は、身が殻の倍ほどになるという驚き。そしてその殻はどこへでも運ばざるをえないという、切なさもある。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和四年六月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)