歳時記を旅する34〔おでん〕中*談論の芯に湯気あぐおでん鍋
佐野 聰
(平成七年作、『春日』)
(「歳時記を旅する34〔おでん〕前*灯の減りし方へと帰るおでんの灯」から続きます。)
暖簾をくぐると店内は、コの字型の檜のカウンターがあり、その中央に四角いおでん鍋が据えてある。
関東煮の名物は、鯨の舌に独特の加工を施した「サエズリ」になるが、鯨皮を煎り油抜きした「ころ」、時間をかけて煮込んだ「鯨すじ」もあり、どれも口に入れると柔らかく溶ける。
上燗屋である「たこ梅」は、江戸時代から酒は錫のタンポをつかい、温燗をする。
柳吉は蝶子と駆け落ちすると、夫婦で関東煮屋を始めることになり、たこ梅の「味加減や銚子の中身の工合、商売のやり口などを調べた」ことになっている。
句の談論とは、談話と議論。芯とは、ものの中心になるもの。その話に、おでんの湯気が欠かせなくなっている。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和五年一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
写真/岡田 耕