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歳時記を旅する54〔西鶴忌〕後*秋澄むや殿の並びし寄進札 

磯村 光生
(平成七年作、『花扇』)

『日本永代蔵』(一六八八年)の菊屋の善蔵という質屋の話(巻三)。

    人に情けをかけることをせず、神仏へ願いをかけることも考えそうにない男だったが、初瀬の観音を信心して急に通い始めた。菊屋は「戸帳がひどくいたんでいるので、私が寄進して新しく掛け替えましょう」と言って、古い戸帳を譲り受けた。この戸帳の唐織は貴重なもので、大切な茶壷の袋や表具切れとして売って、だいぶ金銀を儲けて家が栄えたが、後には、昔よりおちぶれて、京橋で、下り船を目当てに焼酎や清酒の請売りをする身となった。

 戸帳の寄進は、観音信仰からではなく、金儲けの手段だったということ。
 一攫千金のビジネスは、長続きしない。

 句は、秋の透明な空気の中で、寄進した物や金額にかかわらず、整然と、かつ一律に敬意が表されている。

(俳句雑誌『風友』令和六年九月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)

(岡田 耕)




  



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