「ゆりかごのうた」のカナリヤと白秋の妻
【スキ御礼】続・「ゆりかごのうた」を生んだ白秋の想い
北原白秋の詩「ゆりかごのうた」の第1連は、「揺籠の うたを 、カナリヤが 歌ふよ。」。
同じくカナリヤが登場する白秋の詩に「カナリヤ」がある。
この「カナリヤ」の初出は、明治44年4月1日(「三田文学」2巻4号春季特別号)。白秋は26歳のときである。
白秋はこの前年の9月、青山原宿に転居、隣家の人妻である松下俊子と出会う。
苦しい恋愛が続いたとされていたが、「カナリヤ」発表の翌年の明治45年7月、俊子の夫より姦通罪で告訴されている。(翌8月に免訴)
俊子とは後に結婚することになるが、離別している。
白秋は31歳となった大正5年に江口章子と結婚するが、4年後の大正9年、小田原に新築した三階建ての洋館の自宅の地鎮祭の夜、妻の章子に叛かれて離別してしまった。
そして白秋36歳となった大正10年4月、佐藤菊子と結婚する。
同年8月に「揺籠のうた」が発表される。
翌年3月には長男の隆太郎が誕生する。
こうして見ると、「カナリヤ」のカナリヤとは、白秋26歳当時の恋愛対象者の松下俊子投影していると思われる。
また、「揺籠のうた」のカナリヤは、36歳で結婚した妻の佐藤菊子を投影していると思われる。
「揺籠のうた」が書かれた時には、子供が生まれることがわかっていて、将来生まれる子供に妻が唄って聞かせている姿を思い描いていたのだろうと推察される。
夢占いでは、カナリヤの夢は愛情や幸福の意味があるという。
カナリアの美しいさえずりを聞く夢は、幸運が訪れる兆しを告げているともいう。
「ゆりかごのうた」第1連のカナリヤとは、たまたま飛んできたのではなく、ほかでもない揺り籠の中の赤ちゃんの母親そのものの姿なのだろう。
現代にあっては、日本で世界で、たくさんの人たちがカナリヤとなってこの詩を歌い継いでいることになる。
☆「ゆりかごのうた」の演奏とイラストを りんみわ さんが投稿されています。ご紹介します。
(岡田 耕)
*参考文献(引用のほか)
島田修二 田谷鋭『短歌シリーズ人と作品9 北原白秋』桜楓社 1982年