歳時記を旅する27〔蝸牛〕前*葉の裏にいまだ覚めざる蝸牛
土生 重次
(昭和五十七年作、『扉』)
狂言「蝸牛」の一場面。
蝸牛を進上すれば祖父の寿命が伸びるというので、主人は家来の太郎冠者に蝸牛を捕ってくるよう命じる。
蝸牛が何か全く知らない冠者に、主人は「頭は黒く、腰に貝をつけ、折々角を出し、藪にいる」と教える。
藪の中を探して旅疲れで寝ている山伏を見つけた冠者は、山伏の頭が黒いので起こして蝸牛かと尋ねる。
勘違いに気づいた山伏は、からかってやろうと蝸牛のふりをする・・・。
最後は三人が「〽雨も風も吹かぬに、出ざ、かま打ち割ろう…」「〽でんでんむしむし…」と囃子に舞う。
「でんでん」とは「出よ出よ」の意味で、中世の京都のこども達が唄っていた言葉。
句のかたつむりも、見つかってしまえば、呼び起こされてしまうかもしれない、可哀相な宿命にある。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和四年六月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)