歳時記を旅する28〔雲の峯〕中*峯雲や錠掛けて発つ観覧車
佐野 聰
(平成十年作、『春日』)
「丹波太郎」とは、京阪地方で陰暦六月頃に丹波方面の西空に出る雨雲。この雲が現れると夕立が降るという。
こちらは古人の文『好色一代男』(井原西鶴 一六八二)に記されている。
「折節の空は水無月の末、山々に丹波太郎といふ村雲おそろしく」にわかに夕立、雷となり、主人公の浮世之介の多情を恨む女たちを乗せた船を難破させてしまう。
梅田の百貨店の観覧車からは、高層ビルの合間に丹波の山並みを望ことができる。
句の観覧車は、外から鍵が掛けられて、中からは開けない。しんと静まったゴンドラが、恐ろしいほど大きな雲の峰に放り出されてゆくところ。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和四年七月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)