シェア
yūm@
2023年12月24日 11:35
イタリアの小さな庭園・コシュマールに住む暁美さんは、鼠の綿人形専門の時計職人。ある夜、夢遊して帰宅した暁美さんは、時間遡行した勢いで最高傑作の鼠の綿人形を作り上げた。それは袋鼠のように小太りの身体、跳び鼠のような後ろ脚、藁人形のような前脚、兎のような耳(内側は桃色)、全身は灰褐色で、尻尾が長い鼠の綿人形だった。夢遊の終えた暁美さんはとんでもない鼠を作ってしまったと落ち込むが、造形はともかく出来栄え
2023年12月20日 13:50
君の目の前に置かれた青い花瓶。あるとき花瓶は割れてしまいました。風に揺れたのか、割れてしまいたかったのか。花瓶の目の前にいるのは君だけでした。仲の良かった君のお友達も、この時ばかりは教室にはいませんね。そこに居るのは君ひとり。君がそこにいることを、誰も見てはいなくとも、誰もが君がそこにいることなんて知ったままでいる。君を見ることはできなくとも、そこにはいつでも君がいる。君が花瓶の割れるのを、助けて
2023年12月20日 13:35
水中に顔が映ってない。幽霊の条件をクリアすると大変。腕を反対の腕で掴むことで、そこに実体があることを初めて実感できる。見ただけでは、風景となんら変わりがない。なので認識が「崩壊する」という人は多いのかもしれなくても、こちらは認識が「融解する」のほうが相応しいと感じる。溶けてしまう。砕け散ることではなくて。支柱を崩壊させることはない。人格もそのまま。ですが存在感を失いかけたり、輪郭の線の形は変化して
2023年12月15日 14:05
愛であれ、死であれ、それは「青い目」を失うためのもの。それまで夢を見ていた二人が、それをやめてしまうことがある。それまで海の漂いながら、不思議な渦潮の中を散策していたのに、急にそこは海ではなくなる。そこはただの朝だ。朝の白い空に小鳥の囀りが響き渡る。ただそれを聞いているうちに、海の暖かみは霧となり、ここが自分の生きている世界なのだと知る。僕らは海を泳いでいたはずなのに。ここには何もない。なので鳥の
2023年12月13日 17:45
友達や恋人が居なくとも、ただの人間であれば、そこらへんにちらほら居るものです。他の多くの人間たちとは異なり、彼らが見る世界を共有する場はあまり多くはありません。なのでお願いをすると、こちらの見えたものを伝えなければならない代わりに、彼らにしか知り得ることのない、不思議な感覚世界の数々をちょっとだけですが、僕にだって目をよく凝らすと、そのうち見えてくるものだということ位は教えて下さいます。なので孤独
2023年12月8日 13:31
あの人のことを怖がってはならないよ。あの人に君の話が通じると思ったとしても、実際にそんなことなど出来るはずもない。君が怖がるべきは、君の話を聞いたふりをして、悩める君に向かって頷いてみせる連中だ。奴らに君の辿り着いたそれらの観念について、その一片であろうと触れさせてはならない。君があの子たちの見せびらかす膝小僧に夢中になるような男の子ではないことくらい昔から知っている。階段の端を音を立てずに降り
2023年12月8日 13:25
人は何かを見るために、先祖の導きに従って動くもの。それでも結局、齧れるものといえば水か泡。チーズを求めてお家をあとにしたのに、肝心のご馳走は、既に人間の手に渡ってしまったわ。それが羨ましいから、彼らの真似をする。同じものを食べ、同じ道を征く。それでもチーズにありつくことはできない。我々の先祖の顎の骨に付着したままなのよ。古来より、我々鼠が口にするものといえば、野菜や果物。草木に池までの道を訪ね、お
2023年12月8日 13:19
川の氾濫もやみ、長く続いた騒ぎの数々も、遠くの国へと置き去りにして、ここには新たな文化が生まれるものですから、みんなで仲良く、暗い木材の組み立てた家に置かれた、クリスマスのトナカイたちのモチーフにしたテーブルに座り、朝食を始めます。皆さん、普段とは大違いで、穏やかなようでいながらも、新年への楽しみに心を震わしているようですね。テリヤキチキンのサンドイッチはどうか一人で食べさせてください。あの子と一
2023年12月8日 08:16
お弁当箱の中にはモスグリーンをした石鹸。黄色のベッドに沈んでは浮かび、その微生物の暮らすのに最適な繊維質の触れ心地と弾力はまるでかまぼこのそれのようにも喩えられる。指先で押しても、すぐさまこちらへと押し返すように、僕ら家族は非言語でのコミュニケーションを怠った。それらの「おしくらまんじゅう」は単なる偶像の産物でしかない。本来ならば話し合える。それでも僕らは、ウイルスとその他の多くの情勢に混乱させら
2023年12月8日 08:12
可愛いアマガエルを雨の日に見つけたからといって拾ってはなりません。蛙の生きるのはその田んぼの中や、そこから歩いて遊べる野原。もしも君がアマガエルと一緒に暮らすために、お家へ持って帰ってしまっても、君はアマガエルを入れるためのガラスケースを持っていない。仕方がないので、君の好きなハムスターたちの住むケースに入れようか迷っているうちに、アマガエルは手の中から飛び出して、ハムスターたちの部屋に落下する。
2023年12月7日 14:50
「ウグイスと極楽鳥」君の持つ定期入れは、ポケットが沢山あるらしい。水も持たない君の辿り着ける先は、ひとつだけなのに。余所見をすれば、其処だって永遠に遠ざかる始末。地図を眺めて歩くことや、経路を辿って進むと良さそうでも、少しでも迷うのならば向こうを見たまま歩いて線路に落ちてはいけないので、微かに聞こえる死者の声に、耳を澄ませるだけでいい。血管を辿って歩くのはやめて、見つめるべきは、昔から知っ