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寂しい毬藻
友達や恋人が居なくとも、ただの人間であれば、そこらへんにちらほら居るものです。他の多くの人間たちとは異なり、彼らが見る世界を共有する場はあまり多くはありません。なのでお願いをすると、こちらの見えたものを伝えなければならない代わりに、彼らにしか知り得ることのない、不思議な感覚世界の数々をちょっとだけですが、僕にだって目をよく凝らすと、そのうち見えてくるものだということ位は教えて下さいます。なので孤独を感じることがありませんし、君たちの感じてきた孤独を感じたことは、恐らくはこれまでに一度も無いものだと思います。そもそも我々の感じる、その孤独とやらにも個体ごとに、それぞれ別の姿と目の色を備えており、愛や死の形に限りはないことと同じように、うまく召し上がることで、人々に自由を与えるものだと思います。なので君たちが常日頃から思い悩んだり、苦しみの主原因として抱え込むような、それらの黒い毬藻を、清流の進む岩の隙間にひっそりと寝かせてあげては頂けませんか?幾ら可愛いからって、暖かくてなだらかな河川に浸して夢を見させると、せっかくの禍々しさが溶け去ってしまうものです。なので、もしも大切に見つめていたいのであれば、割ることの叶わない頑丈な曇りガラスに隠れたまま、凍らない冷水の中に沈めてあげておいて頂きたい。毬藻はそのうち「個体」という根源的な支配を取り払い、禍々しく生えるその他のカビや苔と共に、その微かに浮かんだ輪郭さえをも、我々からは見えなくさする。そこに在るようで、実は何もない。在ったとしても、居ないことに変わりがない。君と同じで枯渇する運命にある。