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【創作】蟻と陽炎
夏の暑い日。
強い日差しでアスファルトの地面から陽炎が立つ。
顔から体から汗が噴き出している。
背中にTシャツがべっとり張り付いている。
汗で濡れた髪の毛が顔に纏わり付いている。
なぜここに立っているのだろう。
いつから此処にいるのだろう。
駐車場に突っ立って足下の砂利をひとつひとつ目で追っている。
夏は嫌いだ。
体力も気力も奪ってゆくこのむせるように暑い空気が耐えられない。
ふと見るとブロック塀沿いに一匹の蟻がせわしなく動いている。
仲間とはぐれたのだろうか。
砂利を数えるのも飽きていたのでその蟻を見ていた。
そういえば子供の頃
「アリとキリギリズ」を読んだことを思い出した。
アリは夏の間にせっせと働いて冬に備えて食料を集める。
キリギリズは歌を歌って遊んでいる。
寒い冬が来るとアリは十分な食料と温かい住処で暮らし
キリギリズは飢えて凍えて死んでしまう話しだったと思う。
この物語の教訓はアリが正解で
キリギリスは考えないしの阿呆ということなのだろう。
でもアリはキリギリスを羨ましく思ってたのではないだろうか。
キリギリスはアリのように生きられない事を悲しんでいたのかも知れない。
・・・曖昧だ。
この世の中は曖昧模糊としている。
善と悪も、是も非も、白も黒も、男と女も、大人も子供も
すべの境界線がぼやけていて分からなくなった。
おとなになるにつれ正義の選択肢が無数にあることに気づいてしまった。
完璧な悪など存在しないことを知ってしまった。
蟻を見ている。
ブロック塀を必死に登ったのにまた下まで降りてしまった。
真っ直ぐ進めばもっと楽で早いだろうに
上に登ったり下に降りたりして要領を得ない。
これじゃあ餌を探しているのか道に迷っているのか分からない。
蟻の動きを食い入るように見つめている。
いつの間にか自分が蟻になったかのように錯覚する。
蟻になってせっせと歩いている。
右往左往しながら餌を探しているのか道に迷っているのか。
地面から陽炎が立つ。
揺らめく地面を這いつくばって探し回る。
汗で濡れた髪の毛が
体中から滴る汗が
熱い空気が
・・・たまらないんだ。
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