指先から滑る、あなたとわたしの「会いたい」を繋いで
どうも、西川タイジです。
新刊のすなば『SWIPE』を読んで頂いた方から、素敵な感想を頂きましたのでご紹介させてください。
■『SWIPE』については、こちらから。是非チェックくださいませ。
それでは、どうぞ。
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人と人とが交わる速さが光の速さに追いつこうとしている。インターネットは意識のスピードと誤差なく相手に「ハート」を届ける。
マッチングアプリで出会った男女の物語が交差する、すなばさんの連作短編「SWIPE」。スライドとスワイプの違いは、スピードの違いだと何かで読んだことがある。スライドの方がゆっくり、スワイプの方がはやい。
この物語の出会いはとても「はやい」のだ。
ひとりひとりのバックボーンや人となりが、物語には無駄なく澄んで
綴られている。けれど、彼らは相手に過度自分のことを分かってほしいと思っていないことが感じられて、会話の一つひとつひとつが、今の一瞬を繋げるためのものでしかない。
時代性を象徴しているといえるのかもしれないが、だからこそ相手の発する一言が、いっしゅんだけ放つ言葉には、おおいなる含みを持っているんだけれど、出会って間もない男女がすべての含みを救い上げて、包み込んで受け止めることはむずかしい。
だからこそ、かぎられたセリフのなかに込められた一言が、とても密度があって濃いと私は感じられて、翻して自分の今の人間関係のなかのごく限られた言葉のなかに取りこぼしたであろう相手の履歴のような時間を振り返っては、背中がスッとした。
伏線というにはあまりにもナチュラルで微細、トラウマのような鮮烈さのない思考回路・行動パターンが、独自のニュアンスでパチッとまたたく。
出会いは、きれいで、はかない。
東京全体を覆う巨大なニューロンで、わたしとあなたはいっときのシナプス。壮大な集合意識の思惑を想像しながら、ひとりでいることがあまりにも当たり前になり、人に興味を持つきっかけすらも忘れかけていた自分。
そんなわたしでも、東京の細い路地を夜に一人で歩くときの、猛烈に誰かに会いたいと湧き立つ、炭酸ガスのようなシュワシュワした寂しさがたしかにあったのは、知っている。
『SWIPE』の面白いギミックは、各々が自作したプロフィールが記載されているところで、実際の物語内の文脈と、自分自身が他者に伝えるときの、限りある言葉とのあいだに、人間らしい一致と乖離があるところだ。
自分が相手に伝えようと意識して発する言葉と、内側で無意識に醸造された思惑との、なんともいえないことばのちがいが、本当に見事だ。
スワイプは反射的な行為で、エッセンシャルな自分らしい内側の思惑との親和性があるけれど、社会で生きていくために各々が得た独自のスタイルで相手に接するときに、意外性が生まれる。
けれど、この物語たちの意外性は、劇的な展開やエキセントリックに奇抜ではない。むやみに人に鋭さを向けない。
ちょっとした違いに気づいて、ゆっくりすり合わせたり、馴染ませたりしながら、限られた時間を過ごすのは、まさに生きる醍醐味であることを知っている。
年齢を理由に「会いたい」を喉元に留めるくらいなら、指先を滑らせるのも悪くないのかもしれない。
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ものすごくたくさんの要素が繊細に絡み合ってるけれど
さすがのすなばさん、自然に物語に落とし込んでいるから
過度な演出がなくて、マッチングアプリとはいえ、
どこかちゃんと人の温かさを感じました。
川淵紀和
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書いてくれたのは川淵紀和さんです。いつも本当にありがとうございます!細部まで読み込んで頂けて、本当に嬉しいです。
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※これまでにもトーキョーブンミャクの本にたくさん感想をお寄せ頂いてます!合わせて是非お楽しみください!
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それでは、また。