341.人間としての誇りを持ってほしい、みんなは、スターなんだから。
~誰も知らない~イタリアントマト物語(2)
※今回もnote記事11か月特別記念号として「~誰も知らない~イタリアントマト物語」の特集号とさせていただきました。ついでに、coucouさんの表紙のデザインも新装開店となりました。(約80作品ごとに色替えしています)coucouさんの「YES short story」作品ナンバー340、341、342、343の4回読み切り連載となります。ぜひ、お読みくださいね。
どこから読んでもいいように要約してみました。
1.明日からボーイになりなさい
トマトでは前進、前進、躍進と我を忘れるほど成功し続けた。
開店と同時に出店する店はすべて満員御礼。
目標に達する各店では毎日のように働きさんたち全員に、
大入り袋が配られる。
coucouさんは自信満々、有頂天、絶頂だった…。
しかし、ある時、社長から呼び出しを貰う。
すると、
「突然、お前、明日からボーイになりなさい。」
「えっ・・。どうしてですか?」
「今、お前は何でも知っているようだが、知らない事、それは現場だ!」
「しかし、ボーイなどしたことがないし、厨房にも入ったことがありません…。」
「バカヤロー、何が企画だ…。何がデザインだ…。現場も知らずしてどうしてお客の気持ち、働いている人の気持ちがわかるのか?俺の出発点は北海道から集団就職で東京に来て、一人で列車に乗って初めてした仕事はドアボーイだった。そこで学んできた。現場を知ってこい…」
coucouさんは唖然とした。
頭でっかちの、理屈ばかりの有頂天だったことを忘れ、ただ悔しさと、驚きとショックで叩き落された…。
もうこの会社は自分を必要としていない、利用するだけして必要なければ、おさらばなのか…。
なんと寂しい。
今までの犠牲と努力はなんだったのか?
coucouさんの精神はどん底に陥った…。
しかし、やけ気味のまま、悔しさだけを抱えて、トマト本店の早番(早朝)から始め遅番(深夜)勤務となった。
一番嫌だったのは地元。
お客のほとんどが知り合い又は取引先であったり、友人達の目だった…。
最初はボーイではなく、ドアボーイ。
お客様が来れば「いらっしゃいませ」とドアを開け、
帰るお客様がいれば「ありがとうございます」と挨拶だけの単調な仕事。
知り合いには「何しているの?こんなところで?」と冷やかされたり、笑われたり…。毎日が針のむしろ、苦痛だった。
(一応、coucouさんは地元では有名な会社だった)
だから、毎日が針のむしろ…。
取引先の事務員さんが彼氏とデート。
coucouさんを見て不思議そうな顔をする。
下請けの業者さんが仕事の打ち合わせに来た。
ドアの開け閉めに「coucouさん偉いなあ~」と笑いながらからかう…。
coucouさんは「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました」とドアの前で深夜まで続く。深夜になると水商売のきれいな女性たちでいっぱい。そして酔っ払いだらけに絡まれる。
どちらかというと昼も夜もほとんどは女性客だらけ。
美味しいイタリア料理に、独自のアメリカンスタイルのケーキとアイスクリーム。
(当時は珍しいテイクアウトもしていた)
何よりも女性の心に打ったのは可愛い、おしゃれなトマトのマーク。
お皿やティーカップにもそのマークが入っている。
(看板、入り口、フロント、窓などのサイン、メニュー、ケーキメニュー、PОP、ケーキ箱、包装紙、袋とすべてにデザインした。これがcoucouさんの本業で製作から印刷、納品、在庫管理、配送まで行っていた)
しかし、驚いたことに、数か月すると段々と慣れてきて恥ずかしさもなく堂々とできるようになり、楽しくなってきた。
coucouさんが休むと、心配するお客さんも現れた。
毎日来るお客様が来ないと、逆に心配するようになったcoucouさん。
旅行に行ったとお土産をくれるホステスさん。
毎日、毎日、ここには違ったドラマがある。
どうやら、coucouさんはこの仕事が好きになったようだ。
2.みんな、スターなんだよ!
数か月すると、ドアボーイから店内のボーイに昇格した。
ある日、社長が訪ねてきて、スタッフ全員のミーテイングが始まった。
coucouさんは自信を持った、この頑張っている姿を彼に見てもらいたかったからだ。
そこで彼は、こういう。
俺はドアボーイからスタートした。
学歴もコネも何もない。
毎日毎日、「いらっしゃいませ」、
「ありがとうございます」を繰り返してきた。
すると、俺の店ではないのに、来てくれるお客様がいると嬉しくて、ありがたくて「ありがとうございます」が自然と出てきた。
それから、「いらっしゃいませ」が心からいえるようになった。
俺はドアボーイだが、俺はドアを開ける、
お客様と接する真っ先に出会うスターだ。
そう思うようになった。
それから店内のボーイを任されるようになった。
客席は俺のステージだ。
座っているお客は観客だ。
俺は観客を満足させるスター(人生の主役)なんだ。
客席を見つめ、ひとり一人の顔を見て、そのお客様が何を考えて、何を求めているか考える。
その人が幸せなのか?
不幸なのか?
もし、不幸なら幸せにしてあげなければならない。
喜ばせて帰してあげなければならない。
今、その人は一体何を求めているのだろうか?
毎日、毎日そればかり考え続けていた。
恋人同士や夫婦、友人同士、グループで来ている人達もいる。
彼らが何を話して、何を考えて、何を求めているのか?
何を悩んでいるのか?
毎日そう考えて見つめ続けていると、
やがてその人達の心を感じるようになる。
見えるようになる。
テーブルの水が半分以下になればすぐに笑顔で注ぐ。
料理を食べきっているようだったらすぐに片づける。
お客から手を上げさせ、合図をさせたり、「すみません」などと言わせてはならない。
言わせたら失格だ。
ステージで歌う歌手だって同じだ、ただ歌っているだけでなく、薄暗い観客席を見つめながらひとりひとりの表情を見つめ、元気のない人がいたらその人に向かって歌うのが本当のプロだ。
「いらっしゃいませ」ではなく、「お元気ですか」といえる関係。
「ありがとうございます」というより、「お気をつけてお帰り下さい」といえる関係(ファン)を作れ。
俺たちの役目はお客様を幸せにしてあげる仕事だ…。
だが、みんな偉くなっては駄目だ。
偉くなったら何も見えない心の障がい者だ。
偉くなればなるほど物事の本質が見えなくなるものだ。
将来どんなに偉くなっても現場のこの心を忘れないでくれ、
君たちはスター(人生の主役)なんだから。
ドアボーイでもボーイでも、
人間としての誇りを持ってほしい・・
俺たちは、俺たちのストーリーを作るんだよ!
凄い言葉だった…。
涙が出た…。
そう、coucouさんに足りないものは仕事に対する誇りだった。
彼がcoucouさんに望んだことはこれだった。
翌日から、みんなスター(人生の主役)になった…。
coucouさんは、この話を聞き、彼が戻ってこい、といっても戻らず、お客さまの心が見えるようになるまで、しばらくボーイを続けることにした。
そう、coucouさんはスターなんだ。
客席はcoucouさんのステージ、お客様はcoucouさんの観客。
ひとり一人の人生という物語を見るようになった。
人には誰でも心があるよね。
その心って、注意してみていると態度や表情、行動に現れることがわかるようになる。coucouさんも人の心を感じることができるようになった気がしてきた。
おそらく数万人以上の観客を眺めたかも。
その癖が、今でも講演会などの時、
ひとり一人の表情を見つめる癖として今も残っている。
その後、しばらく本部には戻らず、coucouさんは志願して、皿洗いから始めて厨房(コック)に入るようになった。
これで、coucouさんもスター(人生の主役)の仲間入り。
まわりの働きさんたちも、みんなスター。
輝いている。
どうやら、やっと本当の心のデザイン(表現)ができるようになった気がする。
3.トマトの売る力(こころ)
イタリアントマトが大ヒットした秘密はなんでしょう?
この謎解きが現在のcoucouさんのコンサル活動に多大なる影響を与え、現在も変わらずに基本軸となっている。
ここに当時のサンプル(原版)がある。
これはcoucouさんだけが持っている貴重な原版。
coucouさんの大きな基盤となっている考え方は、トマトの社長から何度もだめだしをもらい、無限に近い作品を作り続け、動き回り、調べ回った結果にあるように思える。
彼の口癖は常に、
「それで、売れるのか?」
「それで、感動を与えられるのか?」
「それで、具体的にいくら儲かるのか?」
「それで、喜ばれるのか?」
「反応はどうなのか?」
「好感を与えられるのか?」
「インパクト(目立つのか)はあるのか?」
「それで、理解されるのか?」
「それで、幸せを与えることができるのか?」
そして、「愛されるのか?」「愛せるのか?」と様々な要求が出て、それに全力を傾けたことが現在の考え方にも反映し息衝いている。
そして、「わからない事は現場で聞け」という教えだった。
トマトの創業前、創業後にかけて現場回りを続行する。
その現場とは何か?といえば、徹底とした他店の調査活動にあった。
別に同業者の飲食店だけではない。
お客様が入っているお店、人気店、行列のできるお店などといったように儲かっているお店の現場を知ることだ。
自由が丘、六本木、青山、原宿などにある「アンナミラーズ」「シエーキーズ」「ココパモス」「キャンティ」などの人気店や郊外型のレストランのすべてを回り調査をする。(客層、お客さまの服装、持ち物、会話内容など)
「オレンジハウス」「キテイランド」などの雑貨店。
商業施設では「西武百貨店」「パルコ」「西武プリンスホテル関係」「青山ベルコモンズ」「六本木ロアビル」「六本木スクェアビル(ディスコビル)」「瀬田パークアベニュー」「東京ディズニーランド」。
デザイナーとしては「一色宏(トマトの原案者)」「山本寛斎」「BANの石津謙介」「浜野安弘」「藤田田(マクドナルド社長)」という錚々たるメンバーと会い、新店が開店するたびに全国に調査に行く。
特に注目すべき最大のライバルは「マクドナルド」だった。
ライバルとはいってもマクドナルドの動向に興味を持っていた。
それは毎月30数店舗以上(年間約360店舗)を日本全国に開店させ、市場調査に関しては数十億円と呼ばれる調査費用を投入していたからだ。
この時のいくつかの面白いエピソードがある。
それは全国各地を回っている時に社長は必ず、その現場周辺で食事または何かしらを口にする。その姿を不思議と思い、このような質問をした。
「社長はどこへ行っても何かしら食べていますが、何かの調査なのですか?」
食べ物は、たこ焼きであったり、アイスクリームであったり、お菓子であったり様々。
「はは、俺は方向音痴だし、いろいろな所に出向きすぎ、あとでこの場所を振り返ったときにどこにあったか?どこへ行ったかがわからなくなってしまうからそのための記憶に残すために何かしら口にするようにしている。例えば下北沢のたこ焼きは美味しかったというイメージを残して場所などを自分に記憶させているんだ」
確かに、これだけぐるぐると旅回(調査)りしているのだから、誰でもどこに行ったかのかわからなくなる、それだけ人間の記憶は曖昧。
それを記憶させるために何かしら口にしていた。
その後、わたしも現地がわからなくなり、初めての場所では必ず何かしら口にして味で場所を覚えるようになった。
もうひとつの伝説のエピソードがある。
「社長はどうしてマクドナルドを注目しているのですか?どこの地域に行ってもマクドナルドの前に立っているようですけど?」
coucouさん、はこの時の社長の考え方をいまだに実践している。
「coucouくん、マクドナルドの凄さは調査能力にある。これはどの組織でも真似をすることの出来ないリサーチだ。それは何十億という調査費用にある。新規に出店する場合の判断には駅でいえば乗降客数、町でいえば人口、地域性(歴史的拝啓や人種)、エリア(区域)、男女年齢等の割合、通行量、買い物客の動向などを調べるが、マクドナルドには独自の調査交渉部門があり、その調査費用を莫大にかけていることだ。まさに「わからないことは現場に聞け…」「現場に出向き調べろ…」ということがわかる」
「ではトマトの場合はそれをどう利用するのでしょうか?」
「俺たちにはそれだけの人材と調査費はない。それにまったくの素人軍団だ。だから、そのマクドナルドを利用することだ。それに郊外型レストランはこれからの主流になるだろう。全国に数十万店できていくはずだ。車が止められる、郊外の方が地代が安い。そして何よりも未来は郊外型の商業施設だらけになるだろう。」
これは今から40年以上前の言葉。
「ではトマトはどう戦略を組み立てていきますか?」
「俺たちは未来の時代と逆行して駅前中心で店舗展開を図る。そして、マクドナルドの並びか、周辺にトマトを開店させるんだ。俺たちは、マクドナルドの調査費を頂ければいい。調査費は無料だ…」
驚くべき発想だ。
こうしてトマトは必ずマクドナルドの周辺に店舗展開を始めて、やがて200店舗を超えるようになる。
coucouさんです、みなさん、ごきげんよう!
イタリアントマト物語は語りつくせないほど長い物語。
膨大なエピソードと物語がそこには残されているけれど、そのことを知る人は残念ながら誰もいない。
でもね、coucouさんはこの物語(リアル・ノンフィクション)を文才はないけれど形に残したいと思うようになった。
そこには、ギラギラとする若者たちの青春群像があったからね。
もう少しだけ、おつきあいくださいね。
あるとき、彼はcoucouさんを連れて赤坂のミカド、ラテンクオーターという一流のクラブに連れてかれた。彼の周りにはたくさんの美しい女性が取り囲み、coucouさんの周りにも女性が付いた。
店内の照明は薄暗かったが光の演出が美しい。
何と、天井が高く、まるでコンサート会場のような広さに見えた。
生演奏は有名人が歌う。
coucouさんはすべてに、簡単に酔いしれた。
彼は、突然話しかけてきた。
「ここが俺の原点だ!この店のドアボーイから出発して、お客さまからのチップをいただくようになった。ドアボーイがチップをもらえるなんて誇りに思った。
給料よりもチップの金額の方が多いのだからな。
この店に一介のドアボーイがお客になるなんて爽快だと思わないか!
ここにいる女性たちも必死に誇りを持って働いているのを見て見なさい。
人はその人の仕事によって見下すが、どんな仕事も仕事には変わりはない。仕事はな、人に使えてお金をもらうことなんだ。」
帰り際、coucouさんは伝票を覗いた。
何とわずか2時間いただけなのに50万円近い代金だった…。
coucouさんは彼に尋ねた…。
「高すぎませんか?coucouさんは居酒屋でも良かったんですよ…」
「馬鹿を言うなよ!これは君のために来たんではない。広告宣伝費だ。」
「え、宣伝費?」
「トマトは東京進出を図った。後は評判だ。銀座や六本木、赤坂や青山で働いている女性たちがこのトマトを宣伝してくれる。
彼女らの評価は決して甘くない、厳しい判定を下す。いいものを身に付け、いいものを食べている。つまり、いいものに飢え、いいものを知っている。
だから、その彼女たちがいいと思うものは評判が高くなる。
つまり口コミの強さと評判を広げてもらうんだ。トマトのネーミングとデザインは彼女たちを魅了しているのがわかるだろう。そう、ファンになってもらうんだ。だから、俺たちは彼女たちを愛する、愛される店にならなければならない…」
彼はそう言って1枚500円の無料券を配り続けた。
(彼女たちは500円の無料券よりも、必ずそれ以上のお金を使ってくれた…)
彼の一言ひとことの言葉はとても重くて深い。
どうしてそんな気持ちに、考え方になるのかcoucouさんは不思議に感じた。
わあ~
語りつくせない~
みんな、おつきあい、ありがと~
また、あした~
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