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531.私たちって、自分の作品に一体どのくらいの執念と覚悟を持って書き続けているのでしょう?【出版論第2章】新シリーズ「著作者になる!⑨」


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1・心と心の著作権


 
「神さまがたった一度だけ
この腕を動かして下さるとしたら
母の肩をたたかせてもらおう。
風に揺れる
ぺんぺん草の実を見ていたら
そんな日が、本当に来るような気がした」


〈「愛、深き淵」(「筆をくわえて綴った生命の記録」星野富弘著)より〉


いのちより大切なもの[本/雑誌] / 星野富弘



登山を愛し、機械体操をこよなく愛し、その魅力にとりつかれ、その一念で大学も体育科に進学。そして、夢が叶い体育の教師となった。そして、群馬県高崎市の倉賀中学校の教師となり24歳の6月17日、わずか2カ月ばかりで星野さんは教師生活を終える。

放課後の体育館で踏み切り板を使ってジャンプの練習のため、生徒たちの集まる中で、跳び込み前転から前方宙返りのお手本を見せるとき、不慮の事故で、肩よりすべて麻痺という、あまりにも苛酷な障害を背負うことになった。手も足もまったく動かず、当時は言葉も話せない、動かないだけではなく、まったく感覚すら失ってしまった不治なるがゆえの絶望的な闘病生活を送る。

そして、母との病院生活の中で新しい闘いが始まっていた。
しかし、生きる目的もなく、自ら死を考えることのみ、ただ生きながらえることの苦痛という日々や地獄に似た生活しかなかった。

もういつでも死んでいい、死ぬことは年老いた母を少しでも楽にさせること。つきっきりの母の看病に対して、せめてそれが親孝行のひとつかもしれない。これは当時の星野さんのやさしさからくる心からの願いに似たもの。

「しかし、生きたい・・・・」
病院に駆け込んできた母の足には、田んぼの泥がこびりついていた。この姿は今でも鮮明に覚えていた。「母にだけは迷惑や心配をかけたくはなかった・・・・」だから可能な限り、「母ちゃん、しっかりしなければだめだよ・・・・」と話しかけた。頭の中は母のことだけでいっぱい、おそらく母は富弘さんのことだけでいっぱいだっただろう。

父も母も貧乏だった。でも、なんてあたたかく育てられたのだろう。それがこんなに簡単に終わってしまうのだろうか。富弘さんは自分の幼い頃の母との記憶を辿る。

「何もいらない、今までの日々が全部なくなってもいい、もう一度、もう一度だけあの頃の自分にもどしてほしい・・・・」と神に願った。

1972年、2年目の春。
ある友人が『道ありき』『光あるうちに』という二冊の本を貨してくれた。著者は三浦綾子さんで、その中に、
「生きるというのは権利ではなく義務です」「生きているのではなく生かされているのです・・・」という言葉があった。

富弘さんは、それまで名前しか知らなかったが、この人ほとんどベッドの上で上を向いたまま13年間も病気と戦ってきた人で、その人の言葉だからひとつひとつにうなずき感銘を受け、読みすすんでいるうちに光がさし込んでくるのである。

そして、三浦綾子さんの本の中の「ローマ人への手紙」(聖書の一節)の言葉と出合う。「そればかりではなく患難さえも喜んでいます。それは患難が忍耐を生み出し、忍耐が練られた品性を生み出し、練られた品性が希望を生み出す」という文だった。

この言葉が富弘さんの希望となる。1972年の夏。ある日、寄せ書きを頼まれることになった。もちろん書ける手はない、しかし母を喜ばしてみたい。そこで今までやってみたことのないサインペンを口にくわえて母に手を借り、黒い点をつけるのがやっとだったが何時間かかけて「富」という文字を書いた。だが、首をもち上げただけで全身の力はすべて出しつくしてしまった、呼吸は乱れ、前歯は痛い、硬直した唇とよだれ。

「口でちゃんと字を書きたい!」こんなことで人が喜んでくれるなら、もっと書いてみたいという希望が湧いてくるのです。

しかし、現実には一文字はおろか一本の線すら書けず月日は過ぎていく。だが、富弘さんは諦めなかった。それは口で字を書くことを諦めるのは唯一の望みを棄てることであり、生きることさえ諦めることでもあるような気がしたという。

この時、はじめて神に祈った。

下手でもいいじゃあないか、どんなにのろくてもいいじゃあないか、だれだって初めての時はみんな同じ・・・・。1973年3月、やっと念願の手紙が書けるようになった。一つの手紙に1週間もかかってしまうともあるが、書ける喜びに浸っていた。5月に入って花の美しさを感じ、絵を描いてみようと思うようになった。
1979年2月、スケッチブックはいつの間にか10冊をこえていた。5月15日初めての展覧会を開く。小さな展覧会としてひっそりと開催したが、人から人へ伝わり、新聞に大きく取り上げられ、テレビで放送され、多くの人がこの富弘さんの絵や文字を見て感動を与えた。五年間描きためた60枚の絵はこうしてすべて富弘さんの手から離れていった。今では日本全国に広がっている。

「才能とは執念である、才能とは集中力であり、積み重ねのくり返し」
才能があっても人に感動を与えることはできない。
才能があれば金持ちになれるわけでもない、才能があったから絵を上手に描けるわけではない。

才能があれば金メダルを取り、一流の歌手になれる訳ではない。
そして才能と成功は一切関係なく、才能は自分で生み出し、創るもの。才能は生まれた時から特別な人に備わっているわけでもない。

人があらん限りの持てる力で一生懸命に成しとげたものに、それがたとえ下手なものであっても人に感動を与えることができる。

星野富弘さんの場合は、体の不自由さとか、口で描いたことに驚くのではなくその心の強さに人は感動を覚えてしまう。

生きるって本当に素晴らしい。


愛、深き淵より。 / 星野富弘 【本】


※注 資料協力Ⓒcoucou@note作家さんの協力でまめたものです。
 
 


©coucou@note作家

すべての創作されたものには「著作権」があります。
その作品は、小さな子子どもたちが描いたものでも、老若男女のすべての人に与えられている権利です。

また、その作品が未完成であろうと、下書きであろうと、下手であろうと、誰が見てもわからないものであったとしてもそれが創作されたものであれば、「著作権」があります。

また、左手で書こうが、右手で書こうが、口で書こうが足で書こうがどんな方法であっても創作したものには変わりはありません。

今回の星野さんの作品は初期の「母」という文字から始まって、次々と進化していきます。目の前に写るもの、見えるものすべてに生きるいのちを感じて、感じたままに絵と言葉を書き綴ります。

この一文字にどのくらいの時間をかけたのでしょう?
このたった一枚の絵に何日、何か月かかったのでしょう?

私たちは、自分の作品に一体どのくらいの執念と覚悟を持って書き続けているのでしょう?絵と言うものはたった1枚で人々の心を魅了します。

一冊の本、100冊の本よりも、たった1枚の絵の力は言葉では言い表すことができません。
また、このようなパソコ文字だらけの世界に、「手書き文字」「手描き文字」は、ある意味、その文字自体がアートに思えてしまいます。
完成された誰が見ても上手だという文字よりも。
たとえ、下手であっても、バランスが悪くても、書き順が違ったとしても、それも立派な創作物アートです。
どうでしょう?
完成された美しいものも美しいと思いますが、小さな子どもたちの描いた絵とか文字に感動を覚えないでしょうか?
やはり、デジタルの時代のアナログ手法の手描き文字と言うのは素晴らしく思ってしまいます。

こんな気持ち、こんな思いって、まさに心と心の著作権のような気がします。

文字数4,513文字


続く。


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※さて、毎回、過去作品ですが。「noteと著作権・noteの著作権」として、お役に立ちますよう5作品ずつご紹介いたします。もうすぐ600作品超えてしまうとバックナンバーから消えてしまいますので、(自分の「記事」には残ります)消える前に5作品ずつ掲載することにしました。その後は過去記事のバックナンバーマガジンを作成して保存します。それまでお時間がありましたら「著作権の基本編」をお読みください。みなさまのお役に立てば幸いです。



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ラインスタンプ新作登場~


「noteと言う世界」第3章書くnote「出版論」シリーズを始めました。どうか引き続きお読みください。
また、日々、拘束されている仕事のため、また出張も多く、せっかくいただいているコメントのご返事。お問い合わせメール、お手紙等のお返事がかなり遅れています。しかし、必ず読ませていただいていますのでどうかお許しください。

では、また(月)(水)(金)にお会いいたしましょう。
いつも読んでいただいて心から感謝申し上げます。


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※本内容は、シリーズ「noteの世界」というテーマで著作権等を交えて解説、感想及びnoteの素晴らしさをお伝えしていく予定です。
私たちの著作権協会は市民を中心としたボランティア団体です。主な活動は出版と講演会活動を中心として全国の都道府県、市町村の「著作権・肖像権・SNS等を中心」にお伝えし続けています。皆様から頂いた問題点や質問事項そのものが全国で困っている問題でもあり、現場の声、現場の問題点をテーマに取り上げて活動しています。
それらのテーマの一部がこのnoteにしているものです。ぜひ、楽しみながらお読みください。
noteの世界は優れたアーティストの世界です。創作した人たちにはわからないかも知れませんが、それを読む人、見る人、聴く人たちがリアルに反応してくれる場所です。もし、本格的なプロの方々が参入してもこの凄さには勝てないかもしれません。プロもマネのできないnoteの世界。これからも楽しみにして皆様のnoteを読み続けています。

私たち著作権協会では専門的なことはその方々にお任せして、さらに大切な思いをお伝えします。
本内容は、全国の都道府県、市町村、学校、NPО団体、中小企業、noteの皆様、クリエイター、個人の方々を対象としているものです。また、全国の職員研修での講演先のみなさまにもおすすめしています。
                    特定非営利活動法人著作権協会


「クリエイター著作権全般」特定非営利活動法人著作権協会(NCA)

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