ヴェネツィアの宿 (須賀 敦子)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
須賀敦子さんの作品を読むのは初めてです。
先に読んだ池内紀さんの「文学フシギ帖」で紹介されていたので手に取ってみました。
著者のご家族・友人たちとの交流・ふれあいのエピソードを穏やかな筆で綴ったエッセイです。年代的には私が生まれたころですから、かれこれ50年ほど前、主な舞台は日本とヨーロッパです。如何にもといった感じのその当時の風情を基調に、知的かつ行動的な著者の姿が自然なタッチで描かれています。
文学的な美しい表現が心地よい作品集ですが、収録されているエッセイの中から私の興味を惹いたフレーズをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、勤め先を辞めて飛び込んだローマでの留学生生活の1シーンから。
寮費不足を少しでも補うために仕事をかって出た著者に対して、学生寮の修道女のマリ・ノエル院長はこう語りました。
著者に課された仕事は、一週間に二度、日本のことやヨーロッパについて考えていることをマリ・ノエル院長に話すというものでした。著者とノエル院長は、それこそ様々なことを話し合ったようです。もちろん著者が抱いている悩みについてもです。
著者は、ローマでとても素晴らしい出会いをしたようですね。
もうひとつ、まざまざと情景が浮かぶパリ、ノートルダム寺院の描写。
このあたりの表現はとても上品で、いかにも女流作家の技という感じがしますね。
さらには、ミラノ時代の友人カロラとフィレンツェの人並のなかで再会したシーンの描き方も印象的です。
本書ですが、要は、著者を巡る人びととの様々な交流模様の随感なのですが、読んでいてとても心地よい気分に浸ることができました。やはり、時折は、こういったテイストの本も読まないとだめですね。
最後に紹介するフレーズは、著者の「母親」を語ったくだりです。
母親への様々な思いが伝わってくるいい文章だと思います。
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