(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)
福岡伸一氏の著作は、「生物と無生物のあいだ」「25歳の補習授業」「フェルメール 光の王国」に続いて4冊目です。
最初に読んだ「生物と無生物のあいだ」で紹介されていた「動的平衡」というコンセプトのインパクトは大きかったですね。さらに「フェルメール 光の王国」では、分子生物学者という肩書らしくない思想の柔軟さ、文筆力の確かさにも驚いた記憶があります。
本書は、そんな福岡氏が、文学・芸術・建築・文明・宗教等々多彩なジャンルの論客と語り合った記録です。
まず、福岡氏は、20世紀前半の生化学者ルドルフ・シェーンハイマーが説いた「生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」という生命観を紹介し、それをもとに自らの「動的平衡」というコンセプトを復習しています。
福岡氏によれば、この「動的平衡」というコンセプトは生命観でもありますが世界観でもあるのです。本書で展開されるダイアローグは、この世界観をテーマとしています。
以下に、様々なジャンルの方々との対話の中から、私が気になったフレーズを覚えとして書き残しておきます。
まず、小説家平野啓一郎氏との対話の中から“因果律”を話題にしたくだりからです。
このお二人の、因果律に縛られない「揺らぎ」を認めることが“合理的”だという考え方は面白いですね。
そして、僧侶であり作家の玄侑宗久氏との対話。「仏教」と「科学」との対比です。
仏教は「無常」という概念で、福岡氏が説く「流れとしての生命」を言い当てているとも言えます。
「無常」は「変化」を前提としたコンセプトですが、同じく「変わり行くこと」を前提とした会話が、建築家隈研吾氏との間でも交わされています。
話題は、東北の被災地復興の進め方。マスタープラン作成に時間がかかっている現状について、こう語っています。
このあたりの隈氏の主張は、丹下健三氏に代表される都市計画・都市構想を重視する考え方とは一線を画するものであり、「動的平衡」という福岡氏の提唱する世界観と共鳴するところが多いのだと思います。
さて、本書を読んでの感想です。
福岡氏が本書で紹介されている、バラエティに富んだ方々との対話はとても刺激的で興味深いものでした。
もう少し福岡氏の仕事を追いかけてみたい気がしますね。