辻井喬氏の著作は、以前「伝統の創造力」という本を読んだことがあります。今回は、2冊目。「辻井喬」氏の「古寺巡礼」という組み合わせに興味をもって手に取ってみました。
辻井氏流の面白い着眼や発想があり、私にとってもいろいろと気付きがありました。
まずは、仏教思想理解における「仏像」の意味づけについての辻井氏の考えです。
後世の様々な意図を呑み込んで変貌した教義よりも、不変の仏像の姿に原始の教えが残されているということです。
次は、「新薬師寺」を訪れ、その「新」の意味から繋がる「進歩史観」についての辻井氏の思索です。
本書で紹介されている寺院や仏像は、今に残る素晴らしい文化の結晶です。もし直線的な進歩史観が正しいとするならば、往時のものよりも後年の創造の方が優れていることになります。
文化はその時代の人間の社会性・精神性が作り出すものです。今の建築や美術作品のいくつが1000年の月日を経てもなお心に響く感動を与えうるか、文化における進歩史観は成り立ち得るか・・・、考えされられます。
もうひとつ、会津金塔山惠隆寺の薬師堂を訪れた際のくだりです。
辻井氏の「伝統文化と新しい文化との関係性」についての考え方が表れています。
最後に、最も私の印象に残ったくだりを記しておきます。
福井県小浜市の名刹棡山明通寺を訪れ、鎌倉時代に再建された本堂を目にしたときの辻井氏の気付きです。
この着眼・発想は大いに勉強になります。美という価値観の継承において、過去の静的な美意識を寸分違わず再現するのではなく、その本質を伝えるがために変化を積極的に取り込むという考え方です。
そして、そういった継承の仕方を、最初の創造の段階から織り込んでいるのだとすると、その構想力の雄大さは驚き以外の何ものでもありません。