仕事に効く 教養としての「世界史」 (出口 治明)
(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)
ちょっと話題になっている本です。以前の同僚の方のお薦めでもあったので、読んでみました。
著者の出口治明氏は、ライフネット生命保険株式会社会長兼CEO、歴史の専門家ではありませんが、稀代の読書家としても有名な方です。
本書は、その出口氏が、人類の長い歴史の中から10のトピックを取り上げ現代を読み解くヒントを解説したものです。
具体的な内容は、かなり出口氏流の解釈が開陳されていることもあり、すべてが史実であるかといえば私の知識では識別できませんが、とても刺激的な指摘のオンパレードです。
たとえば、北宋時代に確立された「官僚制」の成立の背景には「紙」と「印刷」があったという話。官僚制を支える官吏の登用には、ご存知の「科挙」という試験が用いられていました。
技術史と政治史のクロスオーバーですね。
もう一つ、中国を理解するための鍵として「諸子百家」が採り上げられているくだりから。春秋戦国期、中国では多彩な思想が一気に勃興しました。
著者は、この「諸子百家」が並び立つ状況をこう解釈しました。
「法家」の思想を奉る官僚に、その与党としての民を生み出すアジテータとしての「儒家」とそれに反抗した少数派の「墨家」。そういった図式を覚めた目で眺める「道家」という並立した俯瞰模様です。
この指摘はとても興味深いですね。著者は、こういった各種思想の棲み分けの賢さに、過去から現在に至る中国社会の安定性の源を認めているのです。
そして、最後は、アメリカを世界の中でどう位置付けるかの基本的認識についてです。
著者は、アメリカを世界の中では特異で例外的な国だと語っています。
こういったそもそもの対象に対する立ち位置の違いを意識し、それを踏まえて考え行動することは、多様な価値観を持つ人々と付き合ううえでは大変重要なことです。これは、国際社会においてもそうでしょうし、ビジネスや常日頃の人間関係においてもそうだと思います。
さて、本書を読み通しての感想ですが、著者は本書によって、私たちに「歴史」を学ぶ姿勢を示してくれているように思いました。
「おわりに」において、著者はこう語っています。
この考え方は、こと歴史にとどまらず、著者の「読書」一般に対する姿勢でもあります。