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日本の夜の公共圏 : スナック研究序説 (谷口 功一・スナック研究会)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 いつも聴いているPeter Barakanさんのpodcast番組に著者の谷口功一さんがゲスト出演していて、「日本の水商売ー法哲学者、夜の街を歩く」という近著の紹介をされたのですが、その際、本書についても触れられました。
 こちらの方が先行して世に出た著作で、「サントリー文化財団」が助成金を出した際に話題になった法学・政治学・行政学などの専門家・教授陣による多角的な考察とのことで興味を持ちました。

 数々の面白い論考がありましたが、それらの中から特に私の関心を惹いたところをいくつか書き留めておきましょう。

 まずは、宍戸常寿東京大学大学院法学政治学研究科教授が示した「憲法学」の切り口からの “スナックに係る法的論点”

(p93より引用) まずはスナックに関連して、法的に正当と評価できる自由利益として、どのようなものがあり得るかを考えてみよう。
 最初に挙げるべきは、スナック経営者の営業の自由(憲法二二条・二九条)である。スナックで働く従業員の職業選択の自由(同二二条)労働基本権 (同二八条)も見やすいところであろう。 他方、スナックの利用者については、そこで集まって会話するという点で集会・表現の自由(同二一条)が考えられる。細かく言えば、会話の内容・目的が商談であるのか「口説く」のかによっても自由・利益の性質は変わり得るが、この際捨象してよいであろう。飲酒の自由が独立した「新しい人権」の一つを構成するか、あるいは一般的な「私生活上の自由」の一内容にとどまるのかも、憲法研究者にとっては人権論上の一大問題たり得るが、いずれにしてもここでは幸福追求権 (同一三条)に関わることを確認すれば足りる。

 思わずニヤリとしたくなるような確信犯的真面目さ?です。

 もうひとつ、日本政治思想史が専門の河野有理法政大学法学部政治学科教授による「二次会」をテーマとした論考の冒頭言。

(p148より引用) ここでは、「社会」や「公共」といった抽象的なものについて考える前に、もう少し具体的な「社」と「会」、とりわけ「二次会」―本書の主題であるスナックはおそらくその主要な舞台の一つであろう―について考えてみたい。そのことを通じて、この問題が単なる議論のための議論ではなく、私たちの「共同生活」(柳田國男)に深く関わっていることを示すことができればと思う。

 こちらも、その立論内容に興味を惹かれます。

 そして本書の巻末「補講」において、法哲学が専門の横濱竜也静岡大学学術院人文社会科学領域法学系列教授は、“公共性” の議論を取り上げてこう記しています。

(p209より引用) さまざまな価値観が存在し、対立する、差異ある社会で、その対立の解決のための必要な制度や社会構造を探るのが、「公共性」論の課題であった

 この “公共性論” の課題を現実的に解決する場のひとつが「スナックでの経験」というのですが、なるほど、これは面白い指摘だと思いますね。

 さて、本書を読み通しての感想です。

 各執筆者が自身の専門領域を基点に自由に論考を拡げているので、様々な切り口からの思いも寄らぬ気づきが得られました。ただ、反面、議論が発散したままで、綜合化されるに至っていないという感じも抱きました。

 何某かの結論めいたものが形作られたかといえば、そうですね、結局、タイトルにあるとおり「スナックは確かに、日本の “夜の共栄圏” を築く橋頭保」だということでしょうか。本書の立ち位置は、むしろこの仮説の補強・検証といった役割でもあるので、こういった多方面からの論拠の列挙でいいのかも知れません。

 ちなみに、私の「スナックでの経験」の発端は、大学生になって休みごとに帰省した折、親父に連れていかれた aramis というお店でした。もう45年以上前のことです。



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