(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
一度は読んでみようと思っていた本です。
作者の藤原ていさんは、作家新田次郎氏の妻、数学者でエッセイスト藤原正彦氏の母です。
太平洋戦争の終戦当時、満州新京にいた藤原夫妻は夫婦別れ別れとなり、ていさんは三人の子供を連れ日本に向けての過酷な脱出行に赴いたのでした。
その言語に絶する厳しさを「あとがき」でこう記しています。
想像もできないような苦難の始まりは夫との別れでした。シベリアに向かう夫に渡した毛布と現金。夫はそれを人に託してていさんに返してきました。
その時のていさんの心境を表したくだりも印象的です。
ていさんの満州からの脱出の苦労は筆舌に尽くし難いものでした。寒さ・暑さ・豪雨、渡河・山越・・・、そういった厳しい自然との闘いもあれば、極限状況における人間の本性を顕にした軋轢もありました。それらは、すべて3人の子どもとともに生き抜くためのものでした。
そして、遂にようやく日本に向かう船が釜山の港から離れたとき、ていさんは、その時の心情をこう記しています。
ていさんと3人の子どもたちにとって、長く苦しい道程の終着駅は信州上諏訪駅でした。
その「引揚者休息所」に着いて。
さて、本書を読み通しての感想です。
出版当時ベストセラーになったとのことですが、さもありなんと首肯できますね。著者自身の実体験に基づくものであり、また舞台が舞台だけに描かれている内容のリアリティは圧倒的です。
ところどころで垣間見ることができる藤原正彦さんの子どものころの姿、それがまた今を彷彿とさせる点も興味を惹きますね。
間違いなく、評判どおりの素晴らしい作品だと思います。