まちがえる脳 (櫻井 芳雄)
(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
“脳科学” 関係の本は久しぶりです。従来の脳科学の成果に対し冷静な評価を加えた論考のようで、興味をもって手に取ってみました。
もちろん、私はこういった分野は全くのど素人なので初めて知ることばかりでしたが、それらの中から特に私の関心を惹いたものをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、「第2章 まちがえるから役に立つ」の章で紹介された脳研究の現状について。
ここでは、ニューロンの不安定な発火のメカニズムとその影響(効果)について解説しています。
「間違い」が想定外のアウトプットを生み出すというのは、「進化」のプロセスにも似た興味深い指摘です。
さらには、こういった “柔軟性(確率的ないい加減さ)” のおかげで、脳に障害が生じた際のリカバリーを可能にするというのですから驚きです。
こういう “いい加減” で一筋縄ではいかない「脳」ですから、昨今のAI(人工知能)議論でみられる「AIは脳の動作をモデル化したものだ」とか、逆に「AIの研究が脳の神経回路で起きていることを解明する」といった論調を櫻井さんは、現在の脳研究の実態を理解していないものだと一蹴します。
そのほかにも、櫻井さんは実しやかに語られている「右脳左脳神話」「男脳女脳神話」「10%神話」といった “脳にまつわる迷信・都市伝説?” を取り上げては、その間違いを指摘していきます。
それらは、脳科学における「機能局在論」「責任部位論」「遺伝子決定論」「神経伝達物質決定論」といった考えによるのですが、脳はそれほど “分かりやすく” はできていないようです。
さて、本書を読み通しての感想ですが、期待どおり、興味深い気づきのオンパレードでした。それらは「新たな知識」もありましたし「新たな考え方」もありました。
たとえば、広辞苑では「物事を忘れずに覚えている、または覚えておくこと。また、その内容。ものおぼえ。」と記されている「記憶」の定義。
こういう捉え方は、拠って立つ基点の違いが新鮮でとても面白いですね。
まさにこれが新たな刺激を得る “読書の楽しみ” のひとつです。