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名画の中で働く人々 ─「仕事」で学ぶ西洋史 (中野 京子)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 いつも聴いているピーター・バラカンさんのpodcast番組に著者の中野京子さんがゲスト出演していて紹介された著作です。

 内容は、中世から現代にかけての西洋絵画を材料に、そこに描かれている人物からその人の職業や当時の社会の姿を解説したものです。
 取り上げられた職業にまつわるエピソードはどれもとても興味深いものでしたが、それらの中から特に印象に残ったものをひとつ書き留めておきましょう。

 世界最古の男の仕事といわれる「傭兵」です。
 なかでも「スイス人傭兵」はその勇猛さで有名だったと言います。そういった傭兵の活躍が、今のスイスの国情を形作ったとの説です。

(p183より引用) 報酬もさることながら、当時の戦争では勝利者は敗者から 略奪し放題で、そちらのほうが実入りは大きかった。傭兵が憎まれる所以である。
 一仕事終えた傭兵がポケットを膨らませて帰郷する。さまざまな国のさまざまな貨幣を持ち帰ったはいいが、そのままでは故郷で使えない。両替商で替えてもらう。そこからスイスでは銀行業が盛んになり、今の金融国家につながったというのだから面白い。
 極貧国→傭兵→各国貨幣→銀行→先進国化→永世中立国という流れである。

 ちなみに、現在のスイスでは、外国軍への参加自体禁止されているとのことですが。

 さて、本書を読んでの感想です。

 取り上げられた “職業” は、当時ならではもの、現代にも連なるもの等々様々です。
 前述したとおり、主として中世から近世ヨーロッパを舞台に、それら多様な職業に携わる人々を、彼ら彼女らが登場する “絵画” を示しつつ解説を加えていく試みはとてもユニークでした。
 その人物や事物の描かれ方を歴史的背景も踏まえて細かく見ていくと、当時の世情や生活が具体的な説得力をもって明らかになっていきます。

 こういった絵画の読み解きスタイルは著者の得意とするところのようですね。そのほかの著作もちょっと気になります。



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