一汁一菜でよいと至るまで (土井 善晴)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。
著者の土井善晴さんは料理研究家として有名ですが、私はNHK料理番組「きょうの料理」に出演していた御父様の土井勝さんの印象が先に立ちます。“あの土井勝さんの息子さん” といったイメージです。
本書は、その善晴さんが大切にしている「一汁一菜」というコンセプトに行きつくまでの過程をモチーフにした彼の半生記的内容のエッセイ集です。
なかなか興味深いエピソードが紹介されているのですが、その中から特に印象に残ったところを書き留めておきます。
まずは、善晴さんが20歳のころ、大学を休学してスイスのローザンヌのホテルで料理人の修行を始めたころ。
善晴さんは、料理長のレシピを書き写して、これでここに来た目的は果たしたような気になっていました。
最近の人気料理店の奇を衒ったような料理に対するアンチテーゼの表明ですね。
そして、次は、フランス、リヨンのレストランでの修行時代。
お世話になっていた家庭での食事風景やレストランの設えから、フランスの “個人を尊重する自由思想” が感じられる1シーンです。
もちろん、味付けは “料理人の個性” の結晶であり尊重すべきものだといった捉え方もあるでしょう。どういった形で料理を楽しむのかは、シチュエーションも踏まえ各々考え方は異なり得ると思いますが、それも含めて “多様性の尊重” という姿勢は大切だと思います。
さて、本書を読んでの感想です。
著者の土井善晴さんは私より2歳年上ですが、ほぼ同世代。善晴さんの半生記でもある本書に記されたエピソードや経験は、私の100倍以上のボリュームと密度がありました。
また、そこで開陳されている善晴さんの「料理」を対象とした探求の積み重ねは、“現代民俗学” の実践とでもいうべき思索プロセスでした。
「料理」そのものに止まらず、さらには「料理を食べる」側に加え「料理を作る」側からの視点を含めて全体の営みとしての「料理」の意味を考え、その具現化として “一汁一菜” というスタイルを提唱しています。まさにご自身が語っているように「料理学」ですね。
どうやら善晴さんは、御父様とは別の山を目指し、見事にその山頂に立ったようです。