希望のつくり方 (玄田 有史)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
いつも行く図書館の書架で目についたので手にとってみました。玄田有史氏の著作を読むのは初めてです。
本書は、個人を取り巻く社会のありようと希望との関係に注目する「希望学(希望の社会科学)」の入門書です。
先の東日本大震災以降、「希望」を扱う著作が数多く出されましたが、この本の発行は2010年10月なので震災前。当時は、長引く不況を背景とした「フリーター」「ニート」「格差社会」といったことばがキーワードになっていたころです。巷には自分の人生に明るい希望を見い出せない人びとが数多く見られていました。
そんな時代において、著者は「希望」についてこう切り出します。
本書は「希望学」の研究成果の紹介です。「学」として「希望」を扱うからには、その定義を明らかにしなくてはなりません。著者は、「希望」を四つの構成要素で規定します。
この「人」を基本単位とした概念整理は、さらに「社会」にまで拡張することができます。
その議論における教育社会学の専門家門脇厚司氏からのアドバイスです。
“Hope is Wish for Something to Come True by Action with Others.” 「社会的な希望」とは、他の誰かと共有しその実現を目指すものだという考え方です。このヒントから著者は、「相互運動」の要素も強めた“Hope is Wish for Something to Come True by Action with Each Other.”すなわち「希望の「社会化」」という概念にも言及しています。
希望は社会的なコンテクストの中で存在するという側面は、希望を持っている人は「ゆるやかなつながりの友人」がいるという調査結果とリンクしています。タイトな人間関係だけでは、同質のタイプが集まりがちで、自分の居場所が狭く圧迫されてくるのです。ちょっと離れた友人は、全く異なる価値観や立ち位置から、普段の人間関係の中では思いつかないような気づきを与えてくれます。
「ウィーク・タイズ(Weak Ties)」、なかなか面白いコンセプトですね。このあたりはこれからのSNSのひとつの態様になりそうです。
さて、本書のタイトルは「希望のつくり方」です。
著者は、希望を持つ大切さとともに、希望を持ち続けるためのヒントも語っています。
“「希望」という物語”、すなわち「希望」を探し続ける模索のプロセスに大きな意味を見出しているのです。
このプロセスを経て人びとが抱く希望は、必ずしも「ゼロをプラスにする」ものとは限りません。現実的には、「ゼロからマイナスにならない」ようにという思いもあります。絶望を社会にもたらさないよう地道な努力を惜しまない人もいるのです。
そして、私たちは、そういう人びとに想いを至らせる想像力を身につけなくてはなりません。それが、現代における「教養」です。
“そういう人がいるんだ”と思う心も、“希望”の一つなのでしょう。