同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (鴻上尚史・佐藤直樹)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
“同調圧力”、とりわけ昨今の世の風潮の中、よく耳にするフレーズです。
本書は、その “同調圧力” をキーワードにした、作家の鴻上尚史さんと評論家の佐藤直樹さんとの対談集です。
お二人の議論の共通の起点は “日本における『同調圧力』は「世間」が生み出している” との認識です。
「世間」は、「社会」とは異なるものです。このあたり、佐藤さんはこう解説しています。
さらに佐藤さんは「『世間』を構成するルール」を4つ挙げています。
① お返しのルール
② 身分制のルール
③ 人間平等主義のルール
④ 呪術性のルール
同じように鴻上さんが整理した「『世間』の特徴」は5つです。
① 贈り物は大切
② 年上が偉い
③ 「同じ時間を生きること」が大切
④ 神秘性
⑤ 仲間外れをつくる
こういった「世間」は、その中で生きていくには “息苦しい” ものです。 とはいえ、現実的には「世間」自体の存在を否定することは難しいでしょう。
鴻上さんの勧める処方箋はこうでした。
また、佐藤さんも自分の言葉でこう伝えています。ここでもスタートは「『世間』を知る」ことです。
このお二方のアドバイス、ともに “「世間」の存在” を前提としています。そして、「知った上での『世間』とのつながり」を勧めています。現実的な判断ではありますが、これはとても興味深いですね。
さて、本書、鴻上さん、佐藤さんお二人の対話を通して、今の時世における “日本社会” の特質を「世間」をいうキーワードで読み解いている内容ですが、正直、私としては取り立てて新たな気づきは得られませんでした。
これは、決してお二方の論旨を否定するものではありません。
私ぐらいの年代の人間の場合、ちょうど学生時代に “日本人論” が一世を風靡していました。ルース・ベネディクトの「菊と刀」、イザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」、山本七平の「「空気」の研究」、中根千枝の「タテ社会の人間関係」等々といった著作は必読書のような “空気” だったのです。そこでは、「世間」「空気」「ホンネとタテマエ」といった概念は、日本人論を語るに必須のトピックでした。
その意味では、当時と相も変わらぬ「世間」が、実社会のみならずさらにネットという「仮想社会」においても世代を超えて引き継がれているということですね。
これは決して「進化」とは言えません。