短編小説「別れた朝はパンケーキを焼こう」Ⅳ章
色々触ってたら記事がひとつ丸ごと消えまして
なぜ?どこ行った?
ということで書き直すことになりました
あぁ~しんどかった💦
しばらくの沈黙のあと、男は立ち上がり、
「お茶でも飲もうか」
ポットに水を入れ、電熱器のスイッチ押したた。
「やっぱり、今日お前すこし変だよ。なにかあったのか?
聞いたところで何も言わないんだろうけどな」
男は2本目の煙草に火をつけた。
起き上がって男の背中にぴったり寄り添った。
「そうね、しいて言えばこの雪が・・・」
「雪?雪に何か辛い思い出でもあるのか?」
「いえ、辞めておくわ。
話したところで何かが変わるわけでもなし・・・
うん。そのうち必ずきれいに別れて、
あなたを奥さんのところへ返すから、あと少しだけこうしていたいの」
男の体はどうしてこんなに暖かいのだろう。
ひとりで生きていくと決めてから、何人の男と体を合わせただろう。
長くて半年、たまには一度だのときもあった。
こんなふしだらな思いを、ネットが手軽に満たしてくれる。
もう三年ばかり続けている。
不思議と危険な男かどうかの判断だけは誤ったことがない。
30分ばかりチャットで会話をすると、不思議と判るのだ。
そこを嗅ぎ分ける能力は、本能的に備わっているようだ。
別れ話がこじれたことは一度もない。
突然、別れを持ち掛けても、じゃあなと皆あっさり去って行く。
そして、わたしは数日何とも言えない虚無感に襲われる。
そんな日は、決まってパンケーキの粉を大量に買い込んで、
焦げ目がきれいにつくまで、何枚も何枚も焼いていると
次第に心が落ち着いてくる。
満足ゆくように焼けたら、バターを塗って、
その上からたっぷりの蜂蜜をかけ、ゆっくり時間をかけて食べる。
そして眠る、明日の仕事のために。
わたしたち家族が市営住宅にいたころ、
わたしが8歳くらいのときだろうか。
母パンケーキには夢中だった。
その頃は、まだホットケーキと呼ばれていた。
新しく購入したホットプレートで焼くと、
袋に書かれてある見本と同じように焦げ目がついた。
それまでフライパンで焼いていたものとは別物だ。
そのパンケーキに季節のフルーツや生クリームを載せ、
それは嬉しそうにわたし達姉弟に出してくれた。
今思えば、家族が一番幸せな時だった。
無理をして買ったマイホームは、幸せの象徴となるはずだった。
新しく切り開いた高台の、日当たりのいい場所に
憧れの一戸建てを買った。玄関に置かれたプランターの花たち。
出窓に置かれたロマンドール。洒落たテラス。バーベキューセット。
母はすべてを叶えたのだ。それは家族の幸せでもあった。
ローン返済と学費のためにと、
母が1日6時間、近所の喫茶店で働くようになったのは、
引っ越しをして半年ほどたった秋口だった。
もともと学校でも美人なお母さんだと言われていたが、
外にでるようになると、子供の目にも輝いて見えた。
指輪やイヤリングも付けるようになった。
人目を惹く母の姿を見て、父もまんざらでもない様子だった
しかし、それから間もなく、
週に1度くらいの割合で夕食後、外出するようになった。
タクシードライバーだった父は、週に3度ほどは夜勤だった。
今の男と初めて会ったのは、父の葬儀の日だった。
その2日前の明け方、弟の亨から電話が入り、
父が死んだことを知った。
忘れもしない10月18日はわたしの38回目の誕生日だった。
どうして今日なのか。
最期までわたしを苦しめる。
13歳のあの日、わたしはこれから一人で生きていくんだと決めた。
誰にも心は許さない。そんな風に力まなければ、
ここまで生きてこれなかったと思っている。
あの雪の朝、足を忍ばせて帰ってきた母は、
夜の勤務だった父が仕事
から帰って来るのを
ずっと玄関に正座して待っていた
玄関のドアが開くと同時に
「お願いです。何もいわず別れてください」
床に頭を擦り付けて言った。
「このバカが!そんなこと絶対に許さん!」
ここ五日ばかり、両親は顔を合わせると言い争いばかり続けていたが、
今日の父の顔は今までに見たこともないものだった、
母を何度も足蹴りしたあげく、
「人のもんに手えだしたら、どんな目に合うか思い知らせてやる」
台所にあった出刃包丁をタオルでしっかり固定して、家を飛び出した。
父の手も震えていた。
母の肩も震えていた。
わたしたち姉弟も階段を降りたところで寄り添って凍り付いていた。
母は、顔を隠すようにストールを巻いて、裸足で父の跡を追った。
夕方になって、父の兄である稔叔父が迎えに来るまで、
わたしたちは学校へも行かず震えていた。
夜半過ぎから降り続いた雪が、いつまでも降り続き
四角い小さな窓から見える家々の屋根が白くなった。
朝ご飯も食べていなかったので
お腹が空いたとぐずる亨に、
昼前にパンケーキを焼いて食べさせてた。
母の見よう見まねで作ったが、
うまく焼けて亨の顔に笑顔が戻った。
その後は二階のわたしの部屋で毛布にくるまり、
しりとりをしたり、変顔ごっこをして時間を過ごした。
途中で、何度か電話のベルが鳴ったが、
ビクリとするばかりで、受話器を取ることは出来きなかった。
今回も見出し絵はみきたにし様のパンケーキのイラストを
使わせていただきました。
続きは旅行より帰りましたら
体力の回復を待ち徐々にあげてまいります
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