信州戸隠紀行 2023秋~⑥ 神 仏 人をつなぐ戸隠の宿坊
2日目の宿は、宝光社から徒歩1分という近さの宿坊 山本館。今回珍しく連泊にしなかったのは、いろんな宿坊の蕎麦懐石を試したかったのと、こちらでしか体験できない『朝拝』に参加したかったからです。
<そば玉>は、秋の新そば入荷を知らせる鼓型の竹細工。これが表に出ているということは、今夜もおいしい新蕎麦が食べられるということ。たのしみたのしみ!
宿坊と言っても建物は近代的な造りで、玄関から部屋まで廊下はすべて畳敷でスリッパ不要という快適さ。エレベーターもあり、全館バリアフリー対応というのも嬉しいですね。
お部屋は広々として開放的。窓際には、旅館でよくみかけるテーブルセットがあったので、陽が暮れるまでのわずかな時間、外の景色と滝の音を味わいながらゆったりとしました。
歩数計によると、この日歩いた距離は16km。水の音の心地よさと、一日の歩き疲れで、つい、うとうと・・・
五社を巡り、鏡池にも行き、そして一日の最後を締めくくるのは、美味しい蕎麦懐石!
食事会場へ向かう廊下の壁には、淡い色で描かれた、巫女舞・宝光社・役行者など戸隠に関わる水彩画が並び、ギャラリーを見ているようで楽しめました。
ー 蕎麦懐石 ー
前日の宿坊と同じような純和風+蕎麦のお料理を想像していたのですが、想像のはるか上をいく美味しさとオシャレさでした。運ばれてくるたびに、その美しさにおぉ~っとなったのですが、そのうちの何品かを紹介しますね。
どれも繊細な味付けで美味しいのはもちろんのこと、器と盛り付けがとても美しく、芸術作品のようです。まるで高級料亭(行ったことないけど)で食事をしているかのような、優雅なお料理の品々。ここ、本当に宿坊ですか?
お料理を運んできてくれるご主人の所作もまた、とても美しく印象的でした。あの所作から生まれるこのお料理、納得です。
そして蕎麦懐石の〆を飾るのはやっぱり手打ちそば。これを食べないと食事が終わらない。
戸隠の伝統工芸である竹細工のざるに盛られた手打ちそば。この盛り付け方も、ぼっち盛りという戸隠特有のものです。(概ね5ぼっち又は6ぼっちの盛りで提供されます)
食べ方は人それぞれですが、なにもつけず → 塩だけ → わさびだけ → つゆで、と楽しみました。
あぁ~、おいしい~。
湧き水仕込みの手打ち新そばは、ため息がでる美味しさ。こんなのを覚えてしまったら、もう地元のお蕎麦屋さんへ行けなくなってしまう・・・
戸隠でしか体験できない味、しっかりと味わって記憶していこう。
好き嫌いが多いわたしでも、ほぼすべてを美味しくいただきました。ごちそうさまでした。
◇ ◇ ◇
翌朝、朝拝の集合時間<6時45分>に間に合うよう、少し早起きをして身支度をととのえました。
戸隠の宿坊の主は『聚長』といって、戸隠神社に奉仕する神職でもあります。(神楽の演奏にも参加されます)
こちらの山本館は、宝光社とともに1000年を歩んできた歴史ある宿坊で、敷地内にある神殿(戸隠神社の御分社)で行われる朝拝に参加できるということで、とても楽しみにしていました。
※前日までに申し込みが必要、参加費無料※
ー 朝拝 ー
入口で<戸隠神社 山本坊>と書かれた襟を首からかけて正装のかわりとし、参列します。この日の朝拝参加者は4名。
はじめにご高齢の神主さんから、ユーモアを交えながら説明がありました。
こちらの主神は、九頭龍大神である
玉串は通常、<サカキ>が使われるが、標高1000mを超える戸隠では育たないため、かわりに<イチイ>を使っている
玉串は、私たちと神さまをとおす・つなぐという意味がある
柏手は丁寧に、指の間から願いや思いが漏れ出ないようにぴったりと閉じて打つ
とはいえ、作法は間違えてもよいので、心をこめてお参りするように
などなど。
御祈祷がはじまってまず驚いたのは、躍動感のある大祓祝詞。太鼓をドンドンと打ち鳴らしながら、緩急抑揚をつけて大きな張りのあるお声で唱えていきます。
聞きなれた春日大社のCDブックの大祓とまったく違う!同じ言葉を唱えているのに、まるで別物のよう。
太鼓の振動をからだ全体で受け止めることに慣れてきたころ、祝詞がいったん止まり、こんどは懐から取りだした紙を読み上げはじめました。
「オン、〇〇~ソワカ」
えっ?
ご真言ですか?!
えーと、ここは神社で、いまは大祓を唱えていたはずで・・・あれ?
どうしてここで仏教用語がでてくるのか??
一瞬混乱し、さきほど必死に覚えた玉串奉納の仕方が、すっぽりとあたまから抜け出てしまいました。
大祓のあとは参拝者のお祓いをして、住所氏名を読み上げたうえで、ひとりひとり祭壇へあがって玉串を奉納しました。たぶん間違った手つきだったと思いますが、心はこめたのできっと許してもらえるでしょう。
さいごにお守りが授与され、およそ30分の朝拝が終わりました。
明治より前の戸隠は、きっとこんな感じだったんだろうな。神と仏にお祈りして、それがごく当たり前のことで。なんだかものすごい体験をした気がする・・
神殿から退出したあともしばらく余韻にひたり、のんびりとお庭を眺めて宿の玄関へもどると、ちょうど神主さんと出会ったので、勇気をだして御真言について聞いてみました。
御真言は、大日如来、不動明王、大黒さま、帝釈天で、心をこめて皆様のためにお祈りさせていただきました、と。
ありがとうございます。おかげさまで、他ではできないだろう貴重な体験として、はっきりと記憶に残りました。
戸隠神社宿坊 山本館、きっとまた訪れるでしょう。
前日の雷雨がうそのような青空の朝、散ったカラマツの葉を踏みながら車を走らせました。そして、戸隠で最後にみた景色は、やっぱり自然からのギフトだと思えるものでした。
大好きな戸隠、また来るね。
ーおわりー