朽ちていく記憶と死なない性分

実はここ最近、秘かに案じては覚悟みたいなものへの準備を自分に課していた。

覚悟は出来ない。
未だ…があるから。

だけど、目に映る景色は
それを心に迫ってきていた。

レスパイトから帰ったママは
反応も鈍く、起こしてご飯を食べ、また起こしてトイレへ連れていっていた。

ママ？ママ？！ママっ！！と呼んでも
え…？私？みたいな顔をしてちらとこちらを見て、また視線はテレビに戻り言葉もあまり出てこなかった。

これは…いよいよ思っていることを、意思を伝えることすら出来ない状況なんじゃないか…

焦った。
寝ててくれてた方が私の暮らしはスムーズに違いないけど、もうあれがしたいこれが欲しいもなく宙をただ眺めて過ごすように変化していくのか、と。

ママって一体なんだったんだろう？
そんな事を思っていた。

15日に退院してから一週間、目も力なく
食べる量もがくんと落ちた。
どうなってしまうか分からないからの怖さを存分に味わった。

今日帰る時、エレベーターの中で1階押して、と言うとちゃんと押し自宅の階数を言ってもちゃんと押した事を、あれは何時だっけと考えた。

そんな小さな事が、
日記にすら書かないような些細なことが、
くすっと笑った一言が、
繋がってくっついて一日になっていたことを知る。

そして帰宅。
玄関、異常なーし♪
匂いセンサー、異常なーし♪
リビングドア、開いてなーい♪
ママ、お？椅子に座ってる(*´▽｀*)



この一週間ずっと寝床に居たのに。
ただいまぁ！と言うと、うん！と帰ってきた。巨大な段ボールが玄関前に置き配され、転げそうになりながらの帰還。



お腹空いた？と聞いてみた。
そうねぇ、うん！



お？反応早い(笑)余程の空腹か？
レンチンのグラタンにした。
どうせ寝てると思ったから、何も買って来なかった。



朝はまた起きていてホラーな朝だったが、トーストも昨日より食べた。
今朝トイレへ連呼するとトイレ失敗もなく、そのまま寝床へ送り届けて出勤したのだった。




グラタンとつくね団子も２本食べ、枝豆もコロッケも食べた。病院での至れり尽くせりが身に付いてしまったから、口元へ運ぶことを要求してくるが、目を離したらグラタン一人で食べてた。

ママ？と呼んでみた。
んん？！何よ、と返ってきた。

戻ってる！！！

動きも早く、返事もする。ご飯食べた後、
ごめんねぇと言ったのが何になのか、分からない。

もしかして迷惑かけてとか思ってる展開？
まさか、と思ったが動きも早く返事もするからまた、枝豆の鞘がマグカップに泳ぐかもしれない。

目が合うとにこーっと笑って、キッズ&ベビーアニマルの動画を見てはしゃいでるのを見たら、またまだママは炸裂しそうだ。

何となくホッとした私が居て、
永えに、続いて来たママの元来の性分は今更変えられないけど、
変えられないなら…




鳴かぬなら
それもいいかな
ホトトギス



朽ちていく記憶を、永えに守り続けたキャラクターで打ち勝って欲しいと思った。




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