【書評】 『同時通訳者の頭の中』関谷英里子・著
題名の通り、同時通訳を手掛ける筆者が、ノウハウや心がけを惜しげもなく開陳してくれる。
本書の冒頭で筆者が指摘し、何度も引き合いに出される通訳の要諦「イメージ力」「レスポンス力」は、たしかにその通りだなと強く頷ける。
前職で、代理店向けのディナーで本社の社長のスピーチの通訳をやらされて(さすがに同時通訳ではなく逐語訳)、俺は1外フランス語なんだから英語出来ないのに!と内心バクバクながら、何とかやり切ったことがあった。
あとになって、代理店の方から
「ミズノさん、通訳凄かったですね。よくあんなにスラスラ訳せましたね」
などとおだてられて面映かったんだけど、振り返ると、通訳する前に自分で決めていたのは、
「社長が何を話したとしても『売上を伸ばしましょう、たくさん売りましょう』って結論にしかならないんだから、そこに行き着くように日本語を考えておこう」
というイメージと、
「間が空くと聞き手を不安にさせるから、社長が口にしていない言葉も付け加えて日本語として伝わるようにしよう」
というレスポンスだった。
通訳をやらされた時点では本書には接していなかったけれど、イメージとレスポンスを押さえていたから、正確さはともかく聞き手にとって違和感の少ないものになったのだろうと思う。
見方を変えると、自称英語できるぜおじさんたちの、実際の会話があまり弾まないのは、英語が出来る俺カッコイイが主題になってしまい、会話の着地点、即ち相手が伝えたいことを見ないから、という気がしてならない。
それ以前に、自称英語出来る設定でも現実には余りにもショボい(英語も日本語も諸々のセンスも)人がいることもまた問題ではあるんだけれど……