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読書感想文・図書館

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読んだ本のまとめです
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記事一覧

ミヤマ物語

主人公は透流という名の少年。 いじめで人間不信になり死んでしまおうとしたら ウンヌに行けと声が聞こえた気がした。 亡くなった父の育った村が「雲濡(うんぬ)村」だとは知らなかったが 不登校の息子にどう接してよいかわからなかった母は 自分自身も不気味だと思っていた屋敷に息子を連れていく。 祖母が亡くなった時、死体が消えたというエピソードさえあるその屋敷。 屋敷の中に異界があるのだ。 雲濡からウンヌにつながっている。 透流はウンヌへ行き、ハギという少年と知り合う。 ハギの母は崖下

スカンダーと裏切りのトライアル

選ばれた少年少女とユニコーンが絆を結び、 自分とユニコーンの魔法の力と絆をどれだけ強くできるか鍛える学校で 起きる問題を描いている。 これで三巻目なのだけれど、終わりではなかった。 前の巻では、スカンダーの姉のケンナが、本来してはならない 野生のユニコーンとの絆を結んでしまったのだ。 実は本当に絆を結ぶべき他のユニコーンがいるということを スカンダーが夢からつかみ、ケンナを説得しようとするのだが、 ケンナは猛反発する。 そして仲が良かった姉弟の関係が崩壊する。 野生のユ

安楽死が合法の国で起こっていること

テレビをつけたらたまたまマリーケ・フェルフールトのドキュメントをやっていた。パラリンピックで何度も金メダルを取った人だそうだ。 痛みを伴う進行性の病気で、2019年に40歳で安楽死を選んだそうだ。 実際には、安楽死の許可は2008年に取っていた。 安楽死は本来、こういう風に「耐えがたい苦痛を伴う治らない病気で」本人とも何度も話し合って許可が出るという制度らしい。 番組自体はとても美しく描かれている。 ひとりの人の、苦悩と決断。周りの人の苦悩。 絶え間なく痛みがあることを彼女

アボカドの種 プーさんの鼻

「プーさんの鼻」で、賞に落ちた母親に受話器をちょうだいとねだる息子 「アボカドの種」では、賞をもらう親のことをどう思うのか と考える。 子が乳幼児の頃には、インタビューに来た記者から「父親がいないことについて」非難がましい言葉を向けられたこともよく会ったのだろうと思う。 あちこちに引っ越して、あちこちでそれなりに馴染んで 息子もコミュニケーション能力は高そうだ。 でも「プロフェッショナル」への出演は秒で断ったそうだ。 俵万智さんの子育て短歌は秀逸だと思う。 恋愛についての

にほんごの話

和合さんは福島で高校の教師をしながら詩を書いている人だ。 原発事故の時につぶやいた詩が話題になり過ぎたことには 違和感もあったらしい。 国語教育の話から始まるのだが なぜ「日本語」と言わず「国語」というのだという疑問に共感した。 「日本語」としようとしたら反対しそうな人がいるのだろうと 谷川さんも言う。 なんていうか、夫婦別姓を反対している人と同じなのでは と納得してしまいそうだ。神がかり的な何かがありそう。 この国際社会で「国語」という言い方ってナショナリズムということで

プーさんの鼻

『アボカドの種』を先に借りてしまったが、 『プーさんの鼻』を読んでいなかったと思った。出産と新生児時代を歌にしているのだ。 思えば、妊娠出産赤ちゃん時代について丁寧に振り返ったことが私にはなかったのだった。 ちょっと思い出して見たくて読み始めたが、まともに思い出すと泣きそうになる🥲😅 うまいなぁと思う。 客観的に切り取れている。 依存するわけではなく子どもを他者として認めていて、そして愛している。 どちらかというと、状況に溺れながら流されていた自分を思う。 あの頃、詩を書

夢の中で人を操る

夢と現実が交錯する話の二巻め。 夢の中には「回廊」があって、色々な人の夢の扉が並んでいる。 近い人の夢の扉は近くにあるし、知らない人の扉はわからない。 一度入れば入りやすくなるが、入れたくない人は、暗証番号やカギをつけて誰も入れないようにする。 けれど、知りたい人の持ち物を持っていると、その人の夢の中には入れてしまう。夢に入って誰かになりすまし、夢の住人を騙してしまうこともある。例えば「あれは偽物だ」と誰かを殺させようとしたり、「あの先にきれいなものがあるよ」と自殺させよう

あとがきはまだ

渡辺祐真さんという書評家が選んだ俵万智さんの選歌集である。 解説付きである。 俵さんはもう九冊も歌集を出しているのだという。 タイトルは 人生は長いひとつの連作であとがきはまだ書かないでおく という短歌から取られたそうだ。 読んでいない歌集もあったので 今回良かったと思った歌をいくつか。 タンポポの綿毛を吹いて見せてやるいつかお前も飛んでゆくから タンポポの綿毛を吹いてやったことはあるけど、こんなふうに思ったことはなかった。 明け方の錯覚たのし一歳の我が隣に寝てい

ある儀式によって、他者の夢の中に入り込めるようになってしまう少年少女の話。舞台はロンドン。 三部作の、これが第一作め。 他者を傷つけることを何とも思わない敵役の少女が現実でとらえられるが、終わりにならなそうな気配である。

言葉の還る場所で

詩人と歌人のそれぞれの分野・作品に対する思いなどが語られている。 どこにでも住めて、引っ越したその日のうちに知り合いを作れるという俵さんのコミュ力はすごい。 谷川さんは基本東京育ちなので、その辺はムリそうだという。 朗読・リーディングについても語っていた。 現代短歌はあの、長く伸ばすような読み方をするのか とか。 谷川さんの講演は二度聞いた。 リーディング込みのものだった。 一度は、谷川さんがまだ73歳の頃 何故覚えているかというと 本人が、「74歳になったら、『ななじ

リメンバーミ―と日本ノ霊異(ふしぎ)ナ話

この本の中に、死者とそのまま暮らす村の話が出てくる。 死体もそのまま、腐ってもそのまま娘を背負っている母親とか。 死体ごと、死者と暮らす村。 そんな村で育った青年は、路傍の髑髏のつぶやきも聞こえるのである。 髑髏は目を貫くように竹が生えてしまって痛くてたまらなかったという。 そして、何故こんなところで野ざらしになっているかを語るのである。 髑髏が語る村は、何かお盆で戻ってくる仏さんを思い出させた。 リメンバーミ―の世界でもある。 よく人は二度死ぬとか言われる。 肉体の死と

ここに素敵なものがある

作者リチャードブローティガンは、芭蕉や一茶を読む人だったそうだ。 この詩集の中の作品は短いものばかりである。 例えばこんな詩 「ばつのわるい思い」なんて、ずいぶん久しぶりに聞いた。 まるで「赤毛のアン」のマシューのようなシャイな人物のようだ。 表題の作品は NHK「理想的本箱」でも紹介された。 訳者の詩人中上哲夫さんの講演を、この前聞いたのだった。

もうひとつの扉

角田さんの、「UFO」の中に入っていた短編。 河童を見たらしいルームメイトがいなくなる。 生活時間が違うのでなかなか気づかずルームシューズに 珈琲豆を入れて確かめてみたりする。 さらに日が経って、何故いないと男が訪ねてきて その男から、一緒に河童を見たという話を聞くのである。 そんなことがあって初めて、その同居人のことを何も知らないと気づく。 細かなエピソードがいろいろあって 派遣として働いている中で仲間が突然契約打ち切りになっていたり 自分の事も打ち切るつもりがある

まどろむ夜のUFO

恋愛小説が多い、という角田さんのイメージとは違うタイトルだったので 借りてみた。 読み始めたら、煙草を吸う人がやけにたくさん出てきたので つい出版念を見たら、96年だった。 煙草の害についてはっきり言う人が増えたころである。 学校の職員室などで吸うのを止めようという話が出始める頃。 まぁタバコが物語を動かしているわけではない。 ストーリーとしては、大学受験を控えている夏休みに、弟タカシが 姉ナナコのところから予備校に通うということになる。 弟とは幼いころUFOのことなどを