【講演レポート】価値観ダイバーシティの時代。採用アンマッチを防ぐために、何をどこで発信すればいいのか?

今、ほぼすべての企業が採用に困っています。

目まぐるしくトレンドが変わるスタートアップも、人的資本経営を重視する大企業も同じく「採用活動の高度化」が進んでいます。こうした中で、従来の採用手法だけでは十分な成果を上げることが難しくなってきました。

雇用の流動化、働き方や価値観の多様化、就職・転職活動の変化など、急速に変化する採用市場に対応していかなければなりません。従来の採用ツールや人材サービスによるスペックのマッチングだけでは、採用ミスマッチが起こりやすくなっています。

こうした採用の悩みを解消するため、「REACH REACH」が採用勉強会を実施。「REACH REACH」は、関西の大手放送局1社、関西の大手総合広告代理店2社の計3社の共同事業として、関西ベンチャー企業の発信力を支援することを目的に発足した団体です。同勉強会にて、株式会社No Company代表の秋山真が登壇し、スタイルマッチの概念をベースに採用マーケティングの戦略設計から具体的なメソッドまでお伝えしました。

担当者のマンパワーに頼らない採用施策、メディアミックスの活用方法、スタイルメイキングのメソッドなど。採用に必要なマインドセットから実践的な方法までしっかりとお伝えします。

多様な時代の採用メソッド「スタイルマッチ」とは


私たちは個人・法人が持つ価値観や性格のことをスタイルと定義し、企業が大切にする価値観や性格と、求職者や社内で働く人が大切にする価値観や性格をマッチングさせる「スタイルマッチ採用」を推進しています。

近年、就活生や求職者の情報ニーズは変化しています。昔は事業に焦点をあてた「事業マッチ」の時代があり、例えば「メガバンクや広告業界に入社すれば将来性がある」という考え方が主流でした。その後、制度や環境面などで働く環境が差別化され、「カルチャーマッチ」の時代となり、事業や業界だけでなく社風や働きやすさも重視されるようになりました。

そして現代の採用市場は、「価値観ダイバーシティ」の時代です。「あなたはなぜ働くのですか?」という質問に対する答えが、かつてないほど多様化しています。事業マッチやカルチャーマッチも重要ですが、現代の多様な働き方や価値観を考えると、より具体的で細かい価値観(スタイル)単位でのマッチングが必要不可欠です。

私たちは本質的なスタイルマッチを実現するために、企業が自社の価値観やスタイルを明確に示す「切り口」を開発し、それを適切なターゲットに届けるための「接点づくり」を、採用マーケティングの視点を持って支援しています。

例えば「20代で成長しやすい環境」というフレーズは、新卒採用でよく使われます。ですが、これだけでは表面的なマッチ要素にすぎません。スタイルマッチではその「成長」の定義や、その環境を設定するに至った価値観まで明確に言語化します。

「就活生や求職者のニーズをおさえつつ、自社の特徴をどのように魅力的な切り口として訴求し、適切なチャネルを通じて接点をつくるか」、これがスタイルマッチ採用の肝です。

弊社の年間パートナーであるパナソニックは、これまで創業者である松下幸之助さんの言葉や、家電製品を中心とした自社プロダクト中心の発信で採用広報を行っていました。しかし、支援を始めた2018年頃は今よりも圧倒的に大企業の人気がなく、従来のメッセージでは他のメーカーとの横並び比較から抜け出せない状態にありました。

そこでこうした発信をやめ、実際に働く人や経営・人事の価値観を詳細にコンテンツ化し、さまざまな媒体で発信する戦略に転換。その結果、応募者の質が変化し、メーカーだけでなくコンサルティングファームや総合商社と併願されるような企業へと変わることに成功しました。

スタイルマッチ採用の利点は、企業の本質的な価値観に基づいて人材をアトラクトできることにあります。表面的なイメージや業界カテゴリーにとらわれず、企業の理念や方針に共感する人材を集めることが可能です。


どこで発信?メディアミックス戦略で潜在層にアプローチせよ

スタイルマッチ採用では、何を伝えるかだけでなく、どこで発信するかも重要です。私たちの調査では、特にZ世代を中心とした若い世代においてはSNSが重要な情報源となっていることがわかっています。

X(旧Twitter)、Instagram、YouTubeが上位を占め、この傾向は数年間ほとんど変わっていません。したがって、経営陣や社員がこれらのプラットフォームで積極的に情報発信することがとても重要です。

また、求職者が求めているコンテンツのフォーマットも明確になってきています。短尺動画や、視覚的に見やすくまとまった画像が人気です。1枚の画像で概要がわかるインフォグラフィックスのようなコンテンツは効果的だと言えます。

SNS時代に求められているのは、リアリティやプロセス、背景が伝わるカジュアルで等身大の企業像です。従来の採用サイトやエージェントを介した情報だけでは、等身大の企業像を伝えきれません。それだけではスペックのマッチングにしかならず、ミスマッチが起こりやすくなるでしょう。

実際に、多くの中小企業やスタートアップが従来の採用媒体以外を活用し、認知度を高めています。過去、SNSのデータから見るZ世代の注目企業を200社ほど集計して発表しました。その中には大手企業だけでなく知名度の低い企業も多く含まれています。これらの企業は、必ずしも採用サイトや就職情報サイトに多額の予算をかけているわけではありません。

※2023年以降は年単位ではなく毎月レポートを発表しています(参考

代わりに、noteなどのプラットフォームを自社のメディアとして活用し、スタイルを発信しています。一つのnoteコンテンツが多くのエンゲージメントを集め、企業の認知度向上につながっているのです。また、STUDIOやNotionといったノーコードツールを使って独自の採用ページを作成するなど、工夫を凝らした取り組みも増えています。

コンテンツのフォーマットや発信方法を工夫することで、知名度の低い企業でも効果的に求職者の目に留まり、認知を広げることが可能です。こうしたメディアミックス戦略を実施することで、「この企業のことを知っている」という潜在的な求職者を増やせます。

スタイルマッチ採用を実現するための2つのポイント

私たちが日常的にクライアント支援や自社の採用活動で実践している、具体的なフレームやメソッドをご紹介します。

【1】B面の発信

まず重要なのが「B面の発信」です。A面が一般的な就職情報サイトやエージェントを通じて発信される、いわゆるスペックに近い情報だとすると、B面は企業の価値観やカルチャーなど企業のリアルな姿がわかる情報です。

通常のスペック情報だけでは、求職者と企業の深いレベルでのマッチングはできません。特に、BtoB企業や知名度の低い企業にとって、このB面の情報をいかに魅力的に、そして尖った形で発信できるかが重要なポイントです。

【2】線の採用

次に重要なのが、線のようにつながる採用活動の長期的な設計です。

現代の採用市場では、潜在的な転職希望者や就活生にもアプローチする必要があり、それに伴って採用活動も長期化しています。特に新卒採用においては、過去と比較して学生の就活の早期化が進んでいるため、将来性のある人材を採用するためには企業側も早期対応をせざるを得ません。こうして長期化した採用活動のすべてを、採用担当者のマンパワーで対応するのは不可能です。

そこで、採用プロセスを「知ってもらう」「理解・共感してもらう」「選んでもらう」という3つのフェーズにわけて考え、各フェーズで何をどこで発信するか、どのような接点をつくるかを綿密に設計します。そして各タッチポイントに効果的なコンテンツを作成し、そのコンテンツに自社の発信を「お任せ」できる状態を目指します。

採用プロセスに目を向け長期的な設計ができれば、どこでどのようなコンテンツが必要か明確になるはずです。点ではなく、入社までの導線をコンテンツという線でつなげていく。こうした「線の採用」を意識したアプローチと、先ほど説明したB面の情報を各フェーズに適切に組み込むことで、求職者が必要とするタイミングで適切なコンテンツが届けられます。

スタイルマッチに必要な要素――MVV、B面、そして「シーン」

スタイルマッチ採用を成功させるためには、必要な要素を理解して発信しなければなりません。スタイルマッチに必要な要素は大きく3つに分類できます。これらの要素をコンテンツや資料などに落とし込んでいきましょう。

1つ目は「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」、2つ目は先ほど説明した、企業の表面的ではない側面を表す「B面」の情報です。

そして3つ目が「シーン」です。シーンとは、経営の価値観や行動指針、パーパスなどを従業員がどのように体現しているか、そしてどのように解釈して仕事をしているかを示すエピソードのことです。

この「シーン」は特に重要な要素です。MVVやB面の情報はきれい事になりがちですが、シーンは現実の姿を伝えます。例えばNo Companyの場合、思想やB面の情報だけでなく、スタートアップならではの組織課題があることや実際の現場が大変な状況も含めて伝えることで、より正確なマッチングを実現しています。

こうしたシーンを届けるには、大きく2つのアプローチがあります。

1つ目は、経営陣から直接発信するパターンです。特にスタートアップの場合、経営陣の発信は非常に重要です。企業のスタイルの源泉は経営者の価値観や言葉そのものであることが多いため、経営者のストーリーとして直接求職者に伝えることが効果的です。

2つ目は、経営者が掲げるMVVやスタイルを、実際に従業員がどう解釈してどういうアクションをしているかというファクトを発信することです。社員目線のストーリーをコンテンツにして伝えます。例えば、育児休暇を取得しながら仕事と両立している従業員にインタビューし、リアルな声をコンテンツにするなどです。

まとめ

企業独自のスタイルを打ち出し、それを採用活動のコアに据えることでよりマッチ度の高い採用が可能になります。そのためには、何を伝えるかという「切り口」を具体的にすることと、どこで発信するかという「接点づくり」がポイントです。

「切り口」を具体的にするには、本日お伝えしたフレームワークやメソッドが役立つと思います。そしてSNS時代の今、求職者や就活生との「接点づくり」にはメディアミックス戦略が欠かせません。予算規模や採用する人材の特性によって活用範囲は異なりますが、潜在的な求職者層へのアプローチを考えると、従来の人材紹介エージェントだけでは限界があります。

本日、お伝えした内容が皆さまのお役に立てば幸いです。


また、勉強会当日は参加者から熱量の高い質問を多数いただきました。全ては紹介しきれないのですが、最後に一部抜粋してご紹介します。

――自社の価値観を言葉にすることが非常に難しく、数ヶ月もかかってしまいました。言語化する際の手順やコツ、ノウハウなどがあればアドバイスがほしいです。

秋山:組織が解決すべき課題、「ペインワード」を掘り下げると、伝えたいキーワードが明確になることがあります。例えば私たちは、スタイルマッチというコンセプトを伝えたい場合、「カルチャーマッチ不全」というペインを設定しました。こうしたペインを解消するためにどのような言葉を発信すればいいのか、スタイルマッチの必要性や特徴がより説明しやすくなり、適切なワードが生まれやすくなりました。
また、社内で実際に使われている言葉を集めることも効果的です。反対に、社内に浸透していない言葉を使っても、候補者に伝える際に自分の言葉で説明できません。
さらに、外部の情報を活用する方法も効果的です。例えば私たちには独自のデータベース「THINK for HR」というものがあります。SNSのビッグデータを解析し、noteやWantedlyなどで高いエンゲージメントを得ている記事で使用されているワードを分析、提供しています。こうした外部の情報源を参考にするのもいいでしょう。

――スタイルの発信は応募後の歩留まり向上には効果的ですが、応募数の獲得には直接的にはつながりにくいと感じています。スタートアップでは予算や母数の問題から応募数獲得が大きな課題になるので、どのようなプラットフォームを選び、どのように応募数を獲得していけばいいか知りたいです。

秋山:スタイルの発信は、精度を上げて採用につながることもあれば、応募数の増加にも寄与します。知名度の低い企業の事例からも見えてくる通り、スタイルの発信によって従来応募対象として認識されていなかった層にもアプローチできています。
また、エージェントに渡す情報をスタイルマッチの観点から変更するだけでも、応募数が変わってくる可能性が十分にあります。リソースと予算が限られている場合、エージェントなど既存のタッチポイントにおけるコミュニケーションを改善することを検討してみてください。エージェントとの定期的な振り返りの際に、どういうスタイルの人材が自社とマッチしやすいかの情報を共有し、PDCAを回していくことでおのずと応募数は伸びていくと考えています。

お知らせ

■弊社サービスに関するお問い合わせについて

No Companyは独自で保有するSNSデータベース「THINK for HR」によるデジタル・SNSデータ分析と、顧客の採用課題や目的、施策状況等のヒアリングをもとに、独自の採用マーケティング戦略を立て、ターゲット人材に選ばれるためのコミュニケーション施策を実行します。戦略策定~施策実行・PDCAまで一気通貫で全体を俯瞰した視点を持ったパートナーとなり、採用プロジェクトに長く並走できることが特徴です。
具体的なソリューションや実績事例について知りたい方は、下記URLよりお気軽にお問い合わせ下さい!

\ 採用活動について無料で相談する /
to.no-company.co.jp/l/1017452/2023-02-28/fvy


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集