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『ラスト・チェリー・ブロッサム』パパとマチコと桜の思い出🌸

暦の上ではとっくに秋だけれどまだ蒸し暑さが残る中で、図らずも読みかけになっていた本の(スミマセン…)邦訳本が先月に出ていた事を知り、改めてちょっと紐解いてみた。ラスト・チェリー・ブロッサム(The Last Cherry Blossom)、キャサリン・バーキンショーさん著。
1年半前、あるオンラインイベント(広島平和記念資料館関連)で、日系人作家ナオミ・ヒラハラさん(『ヒロシマ・ボーイ』著者)と共にゲストレクチャーや対談をされた、ノースカロライナ在住のキャサリンさん。ある時彼女の娘さんが、学校の課題の為におばあちゃんの広島の体験を知りたいと言い出した事が、この本が世に出るきっかけとなったという。

物語は1944年夏から始まる。小学生のユリコは新聞社を経営するパパ、ちょっと小煩い叔母キミコと息子(従弟)ゲンジと広島市内で暮らしていた。パパは多忙ではあったが包容力があり、ユリコは「嬢や」と優しく呼びかけられるのが大好きだった。近所には何でも話せる親友のマチコがいて、音楽好きな彼女とこっそりジャズのレコードを聴くのも楽しみのひとつ。そんな世界が彼女の全てだった。
12歳の多感で観察力の優れたユリコの目は、学校の授業中の事、広島の煌びやかな繁華街の様子、時折家の外で見かける悲しげな目の男性、パパの再婚で少しずつ変わりゆく家族関係などをつぶさに見つめ、次第に何処か重苦しくなってゆく街の空気、近所のお兄さんの出征、プロパガンダとの狭間でもがくパパの様子まで、子供故に良く分からないながらもカラフルに繊細に描いてゆく…あの瞬間の事までも。

チャプターの冒頭ごとに当時の日本の大本営発表が引用されており、現実の市民生活に及ぼした影響、引き起こした事などをある程度知る後世の者としては時に身につまされる。お孫さんの課題の為に重い口を開いて語り出した母親(因みに戦後、入間ジョンソン基地の米兵の方と結婚し渡米された)の体験をほぼ初めて知り、キャサリンさんはこの物語を学校などで語り始めるようになった。先生達にテキストにもなるからと請われ、未来のある子供達の為ならとペンを執った結晶がこの作品であり、世に出される前年にお母様は天に召されたものの、キャサリンさんの原稿に目を通し、自分の体験を読みたいと言う人々が多くいるのに驚きながらも喜んでおられたという。

そういう訳で想定する読者の主な対象が小学校高学年からティーンエイジャーながらも、むしろ戦争が市井の生活にどのような影を落とすかを、飾らないシンプルな目線で浮き彫りにする物語は、オトナの方こそ読んでみる価値があると感じた(それでも私の語学力ではおっつかないのだけれど)。
邦訳版の訳は吉井知代子さん、ほるぷ出版より8/12に発売された。表紙絵はマチコとの花見の思い出だろうか。また読み直さなければ。
余談だが、ナオミ・ヒラハラさんの作風が佐藤愛子さん的だとしたら、キャサリンさんは田辺聖子さん的かもしれない。そんな事もちょっと思った。

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