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書評「宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話」(長尾彰)

僕はずっと違和感をもっていたことがありました。それは、僕が普段書いているサッカーのレビューについてです。

幸い僕のレビューは、多くの人に読んで頂いています。ただ、他の人が書いているレビューと、僕が書いているレビューはどうも違う。その違いが、僕の中では言葉にできず、上手く理解できず、もがいていた時期がありました。

最近のサッカーのレビューは、フレームワークを採用しつつ、選手の動きを元に戦術を分析していくレビューが流行りなのですが、僕はレビューを書く時、フレームワークは極力使わないし、戦術の分析はあまり書かない。他の人のレビューとは注目している観点が違うのですが、どう違うのかが説明できない。そんな、モヤモヤした時期がありました。

モヤモヤした時期を抜けたきっかけは、ひょんなことから、組織開発ファシリテーターの長尾彰さんにお会いしてからです。長尾彰さんに「チームビルディングやファシリテーションについて勉強会をやりたい」と相談したところ、快く引き受けて頂きました。

話をしていくうちに、僕はあることに気がつきました。それは、僕がレビューに書いていたことは、「戦術」のことではなく、「チーム」のことだということです。チームの課題、どうすれば成長できるのかといった点を書いたテキストは、たしかに他にはない。その事を、長尾さんとの対話を通じて理解することができました。

長尾さんは、様々な企業のチームビルディングに関わりつつ、日本で初めてのイエナプランスクール認定校でもある大日向小学校を運営する法人の理事を務めています。

前置きが長くなりましたが、長尾さんが「チーム」の話に関する考えをまとめた書籍が発売になりました。それが「宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話」です。

本書で印象に残った点は、2点あります。

「理想の組織」やチームづくりに「成功ルール」はない

1点目は、「理想の組織」やチームづくりに「成功ルール」はない、ということです。

最近興味があって、様々な組織開発やチームに関する書籍を読んでいるのですが、多くの本は「理想のチームの姿」を思い浮かべ、理想のチームに近づけるためにどうすべきか書いています。

しかし、本書は違います。理想の組織は、チームの理念、目標などによって変わるし、理念や目標を実現するために、常に理想のメンバーが集まったドリームチームが作れるわけではありません。

同じチームなんて世界中にどこにもないし、ましてや、理想のチームはない。いま自分の周りにいるメンバーで、最高のチームを作るにはどうしたらよいか。本書に書いていることは当たり前のことなのですが、当たり前のことを書いている本が少ないので、とても貴重な本だと思います。

「理想の組織」やチームづくりに「成功ルール」はない、という言葉を聞いて思い出したのが、風間八宏さんが川崎フロンターレの監督に就任したときに語っていた言葉です。

Q.風間さんがフロンターレでやりたいサッカーはどういうもので、それは何対何のサッカーなのか?

A.正直言うと、理想はありません。なぜかというと、それは選手の中で決めることで僕がやることではないですから。一番は、もちろん90分間ボールを持ち続けて選手が楽しんでやること。球技である以上、ボールを持たずに考えることはないですよね。例えば手でやるスポーツで、ボールを持っていない、ボールを取られることを考えるスポーツはないですよね?だから堂々と自信を持って、ボールを持つサッカーをしていって欲しい。そのなかで選手たちの発想が出てくる。何対何というのはありません。その中で僕があれそっちに行くのと思うことがあって、まったく違う方向に行っても、それでとんでもない結果を出してくれればそれは面白いと思う。元から当てはめる気もないですし、彼らが作っていくものにもっともっと大きくしていこうと考えています。それが僕の理想だと思っています。

ここで風間さんが語っているのは「理想はない」ということ、そして、「選手の中で決めることで僕がやることではない」ということ、さらに、自分が思い描くのと違う方向にいっても、とんでもない結果を出してくれればそれは面白い、ということです。

風間さんが語っていることから読みとけるチームづくりは、理想のチームを明確に描き、設計図を描いて、設計図通りに進んでいくチーム作りとは異なります。

風間さんのチームづくりが理解されないのは、理想のチームや設計図を描くチームづくりを正しいと考えている人とは、考えが異なるからだと思います。理想もないし、答えもない。今のメンバーの力を最大限引き出し、チームを作っていくので、チームの形も、組み合わせも、そのときによって変わる。僕は当たり前のことだと思っていたのですが、レビューを書いていて、当たり前ではない人がいる(それも結構な数)ことに気がつきました。

でも、本書を読んで、チームについて、同じような考え方をしている人がいるのだということに気がつきました。そして、自分が漠然と考えていたことを、本書は分かりやすく言葉にしてくれています。

チームを動かす「しないこと」

2点目は、「チームを動かす「しないこと」20の原則」です。

「選択肢を奪わない」「コントロールしない」「答えを分かっていることを質問しようとしない」といった20の「しないこと」は、「命令する」「コントロールする」「自分がやりたいことを人の口から言わせる」といった、これまでのチーム作りで採用されていた方法とは真逆です。

僕の周囲で本書を読んだ人の中にも、この「しないこと」が印象に残ったという人が多かったです。チームのなかで、決められたことだけ実行し、指示に従うことだけを求められている仕事が嫌だという人がいても、結局はどうしてよいか分からない人にとって、この「しないこと」は、頭の中のもやもやをクリアにしてくれると思うのです。

僕は長尾さんにお会いして、いろいろとお喋りするようになって、自分の考えていることがだいぶ整理されたし、自分の考えていたことが、よりクリアになりました。

本書を読んだ人は、ぜひいろいろな人におすすめし、どうすればよいか、感想を話し合ってみてください。お互いの考え方の理解を理解しつつ、どうすれば上手くいくのか。話し合うことが全ての出発点だとしたら、出発点のきっかけを作ってくれる書籍だと思います。ぜひ読んでみてください。


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西原雄一
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