【短編】『50回目のファースト××』
50回目のファースト××
私は大学に落第してからのこと一人暮らしをしながらニートを満喫していた。他のニートがそうであるように、私も昼夜逆転の生活を送っていた。夜目が覚めると、冷凍庫から冷凍食品を取り出し、温めている最中にテレビの電源をつけ、ごはんができると、ソファに座ってアニメを見ながらご飯を済ませる。それから作業デスクに移ってテレビゲームを始めるとあっという間に一日が終わるのだ。まあ、言うなれば典型的なニートである。しかし、一点だけ他のニートとは異なることがあった。実は、私は短期記憶障害で毎夜目が覚めると昨日の記憶がまるっきりなくなっているのである。そして、幸か不幸か誰よりも強い性欲の持ち主なのである。ゲームを途中で中断しては何度もトイレへと向かい、事を致すと、再びデスクに戻ってゲームを再開する毎日であった。しかし、同時に童貞でもあった。
ある日、ひょんなことに、ゲームをしながら自分はこのまま何も成し遂げられず人生を終えるのではと思った私は、ふと微かに記憶に残っている〇〇サイトの広告で見た、××のデリヘルでも呼んでみるかと思い至ったのだ。いざデリヘルを呼んでみると、意外と緊張することもなく、とても気さくな女性が対応をしてくれた。しかし、赤の他人と家に二人きりという状況にどこか違和感を思えた。初体験がデリヘル嬢というのは世間一般には下に見られがちだが、私は特に気にならなかった。
女性は特に自己紹介もすることなく、慣れた言い方で私をシャワーに誘ったが、予め一通りの段取りはネットでリサーチ済みだったため、私は事前にシャワーを浴び終えていた。女性はシャワーを浴び、髪を乾かし終えると「始めましょうか。」と言って、早着替えをしたかのように一瞬にして裸になった。僕も恐る恐る衣服を脱ぐと、お互いが裸でいることに少し恥ずかしさを感じた。お互いベッドに座ると、私の初体験は始まった。
目が覚めると、夜であった。私は、いつものように冷凍食品を食べながらアニメを見ては、その後ゲームをして一日を過ごしていた。すると、どういうことか、今自分が送っている日常そして自分自身に対してどこか嫌気が差してくるのである。私はこのまま何も成し遂げられずに人生を終えるのではと焦った私は、自分に何かできることはないかとネットを開いた。すると、最新のページにデリヘルのサイトが開かれているのである。この衝動と言い、偶然性と言い、これは神様がせめて童貞だけは卒業しなさいと私に告げているのではないかと運命を感じた。
私は、すぐに店舗に電話をかけ、自分の好みの女性の名前で依頼をした。女性は家に着くと、すでに家を知り尽くしているかのように、シャワーを浴びに行った。初体験は言葉にできないほどのものであった。
それからのこと、毎日起きては、湧き出る衝動のまま、デリヘル嬢を呼んだ。障害を持った私にとっては毎日が挑戦的で、初体験であった。しかし、ある日、毎度のようにデリヘルを呼ぼうとすると、口座残高が足りていないことに気づいたのである。今までは母親が度々入金してくれていたため、お金に困るということはなかったのだが、どうも様子がおかしかった。朝になって渋々母親に電話をかけると、「金輪際お金は送りません!」の一点張りなのである。仕方なく、その日は諦めて独りで事を致すことにした。それからのこと、夜起きて記憶を失っては、デリヘルを呼べず凹んでしまう毎日であった。そして、家の中は徐々に嫌な匂いが増していった。
私はある日、とうとう家にいることが耐えられなくなり、気づくと街へと出かけていた。行き先に迷った私は、お金を引出そうと近くのATMへと向かった。残金は2000円ほどであった。お金を使いたくなかった私はどこかで時間を潰そうと、近くの寂れた古書店に入った。店内には誰もおらず、すぐに目に入った漫画コーナーへとスタスタ歩いていった。少しばかり漫画を読むのに熱中していると、店の奥から「いらっしゃいませ。」と女性の声が聞こえた。私は、咄嗟に漫画を棚に戻して女性の方へと目をやった。その時私は、初めて恋をしたのだった。
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