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【短編小説】週3日投稿

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SF・ミステリー・コメディ・ホラー・恋愛・ファンタジー様々なジャンルの短編小説を週に3日(火〜木)執筆投稿しています。 全て5分以内で読めるので、気になるものあればご気軽に読んで…
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2025年1月の記事一覧

【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」十四)

【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」十四)

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」十四)

 カーリーは、フィルの真剣な眼差しを見て、首を何度か縦に振った。ニールやアダムは心配そうな目でそれを見届けた。本人の意思を目の前に、何も言えなかったのだ。ジョナスは深くニット帽をかぶってどんな表情かはわからない。五人の間には解散する雰囲気が流れる。

「じゃあ、俺行くわ」

 そうジョナスが切り出すと、次々とその場を去っていく

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【短編】『コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十三)』

【短編】『コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十三)』

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」十三)

 家に帰宅した叔父は、一言も発することなくそのままソファの上に腰を下ろした。フィルはその姿を認識しながら、テレビに釘付けになっていた。人を殺せばニュースになるはず。彼が死んだとするなら速報で出てきてもおかしくはない。しかし叔父は警察官だ。すでに事情を知っているに違いない。いつもと叔父の様子が違う。帰ってきたときの挨拶もないし、タバコを

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【短編】コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十二)

【短編】コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十二)

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」十二)

 教室にはちらほら生徒が残っていた。週末何して遊ぶかで女子たちは盛り上がり、男子たちは誰かが発明した小型ロボットを動かして騒いでいた。終了の鐘が鳴ったあとすぐにニールがこちらへとやってきて、ゴールデンゲートパークに行こうと誘ってきたが、今日は用事があるんだと言って断った。フィルは何気なくガリ勉くんの隣で教科書を開き授業の復習を

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【短編】『コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十一)』

【短編】『コンピュータが見る悪夢(中編「密売人」十一)』

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」十一)

 ニールは男たちに向かって手を振ると、彼らもニールに手を振りかえした。丸太の上には、暗い緑のニット帽と黒い革のジャケットを羽織った男。髪を上で結んで茶色のセーターを着たアジア人の男。もう一人は、地面に尻をついており、メガネをかけチェック柄の白いシャツを着ている。彼は頭が良さそうだ。皆一様に痩せてはいるがその中でも自分が一番だっ

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【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」⑩)

【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」⑩)

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」⑩)

 父が人を殺した。フィルの思考は即座に回転を始め、それが何を示すのか、なぜ家に戻って来ることができないのかという原因と結果を繋げようと試みた。しかし極小な光が細い回路を進む中、何かがフィルの思考の邪魔をした。なぜ人を殺したら家に帰ってきてはいけないのか。父はいつも言っていた。良いことするのではなく、人の役に立つことをしろ。俺は人

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【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」⑨)

【短編】『コンピュータが見る悪夢』(中編「密売人」⑨)

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コンピュータが見る悪夢
(中編「密売人」⑨)

 父の残した僅かの金と、これまで培った盗みの腕でなんとか食べ物に困ることはなかった。悲しくも父がいない家はフィルにとっていつもと変わらない日常だった。玄関扉が閉まる音は、父が出て行ったか帰ってきたかのどちらかの合図だった。買い物に行くのはいつも自分で、父が短時間家を空けることなどありえなかった。一度出てしまえばそれっきり、何日も

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