- 運営しているクリエイター
2024年9月の記事一覧
【短編】『僕が入る墓』(最終章 二)
前編はこちら
僕が入る墓(最終章 二)
一本道を駆け抜ける白いミニバンの強風によって、穂をつけつつある稲の海が激しく波打つ。あたりはすでに暗く、車の向けるハイビームの先に人の気配は一切ない。そこら中が畑に覆われ、まるで畑を中央突破していくようにミラーに映る。平地に伸びる一本道は永遠と続き、ようやく山道を登り始める頃には全員の緊張は絶頂を超えて徐々に薄れつつあった。義父がハンドルを握り、助手席
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十三)
前編はこちら
僕が入る墓(遡及編 十三)
清乃は寝巻きのまま家へと急ぐと、すでに丘の上から天に登る龍のように煙がもくもくと立ちのぼっていた。坂を上がり切ると、家の前には村人たちが大勢集まっていた。そこにはまるで何者かが故意にやったかのように綺麗な円を描いて炎が家を取り囲み闇夜を眩しく照らしていた。
「おとー!おかー!」
清乃はほとばしる炎を前に膝から崩れ落ち、泣きじゃくりながら叫んだ。
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十二)
前編はこちら
僕が入る墓(遡及編 十二)
又三郎は家へ戻ると、畠仕事を忘れてそのまま眠ってしまった。目の前にはまた屋敷の光景があった。今度は人混みが多く屋敷の中は活気に満ちていた。自分はその屋敷に住む地主のようだった。おおよそこの村に来る前の記憶が、その過去を忘れさせまいと必死に語りかけているようだった。
しかし廊下の外から聴こえた叫び声に気を取られ目を離した途端、目の前にいた人間たちは
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十一)
前編はこちら
僕が入る墓(遡及編 十一)
屋敷での食事は、今までに食べたことのないものばかりが卓に並んだ。奈良漬けの瓜に、マグロとヒラメの刺身。小皿には醤油。そして牛鍋が卓を一層賑やかにさせた。清乃はそれらをどう食べて良いのかわからないまま周りを取り囲む女たちの箸の動きを真似た。
一人遅れをとって食事を済ませると、皆が一斉に居間からいなくなった。清乃も寝室に戻り、夫の久保田正孝との枕の間