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幻滅源氏物語…玉鬘十帖の「引かれる源氏」
若い人に「源氏物語」の解説をすることが多いのですが、源氏はけっこう女性に引かれます。「惹かれる」のではなくて、ドン引きの方の「引かれる」です。
特に「玉鬘十帖」の解説をしている時。
立教の過去問に「玉鬘」の場面があるので、MARCHを目指す受験生にはこれを解いてもらうことになります。答え合わせのあと、私が現代語訳を言いながら詳しい状況を説明すると……女性はほぼ間違いなく引きます。なんとも冷ややかな表情になります。
「玉鬘十帖」は源氏が中年になってからのお話。
ざっくり整理すると、
金も地位もあり経歴も華麗なイケオジが地方から都会に出てきた若い女性をずるいやり方で自分のところに囲い込み、よそへは行かないようにする……という物語。その上、このイケオジはかなり無神経な台詞を言い放ちます。
う~ん、現代にもいそうですよね、こういう人。
ちなみに立教の過去問は、源氏に仕えているベテラン女房の右近が、35歳の源氏と27歳の紫の上がくつろいでいる前で、玉鬘(21歳)を見つけたことを報告するという場面。源氏は右近に足を揉ませながら報告を聞きます。
当時の40歳は今の還暦だそうですから、この状況を現代に置きかえると、
アラフィフのイケオジが年下妻の横で長年その家で働いている家政婦さんにマッサージさせながら昔自分が愛した人の娘が大学生になって田舎から上京していたということをにやけながら聞いている……という感じですかね。
しかも源氏、こんなことを言います。
「若き人は、苦しとてむつかるめり。なほ年経ぬるどちこそ、心かはして、睦びよかりけれ」
意訳:「若い女房はつらいと言って私の足を揉むのをいやがるようだ。やはり年を取ったもの(右近のこと)同士が気持ちが通い合って仲良くできるなぁ」
これを聞いて若い女房たちが言い合った台詞。
「さりや。誰かその使ひならひたまはむをばむつからむ。うるさきたはぶれごと言ひかかりたまふを、わづらはしきに」など言ひあへり。
意訳:「そうですよ。誰がそのように(源氏の君が私たちに)言い付け慣れていらっしゃるような足揉みを嫌がりましょうか? めんどうなご冗談をおっしゃって私たちをからかいなさるのがつらいんです」
これ、さらに意訳すると、
マッサージはしてあげてもいいけど、セクハラめいたこと言うのがうざいんだよ。
これが中年になった源氏の現実。光源氏というより引かれる源氏です。
「そもそも、最愛の人であるはずの紫の上の横で女房に足を揉ませるなんてねぇ」と私が言ったら、受験生の女性も「そうですよ」とうなずいていました。
「ただ、当時はパナソニックのマッサージ機なんてないから、セレブの源氏が足を揉んでほしいと思うのもしょうがないのかな」と、私が一応弁護をしてみると、
「自分で揉め!」
だよね~。
かなりお怒りの表情でした。
若き源氏が政治争いに敗れ、京を捨てて須磨へ下るのは貴種流離譚(貴人が放浪して試練を乗り越える話)ですが、「玉鬘十帖」はゲス流離譚だと私は思っています。
源氏が本来の高貴さを離れて、ゲスへゲスへと流れて行く……。
歳を取っても源氏のようになってはいけない。
そう思わせてくれる「玉鬘十帖」です。
見出し画像は秋も半ばを過ぎた蟷螂