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私の詩集1

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2023年4月の記事一覧

〔詩〕葉桜

今年の桜も終わったと
口々に皆が言う
青々と茂る桜の若葉を
足を止めて見上げたりはしない

それでも桜は生きている
誰にも称賛されなくても
精一杯ひかりを浴びて
道行く人たちの傍らで

また来年の春のために
光合成と呼吸を繰り返し
誰かに見られるためではなく
美しい本能のままに

桜は生き続けている

〔詩〕深海のレクイエム

〔詩〕深海のレクイエム

人魚は何を夢見たのだろう

王子と結婚し
生涯を人間として暮らすこと
そんなものに
どれほどの魅力があったのか
遠く深く広がる蒼い世界より
妖しい歌声や秘密めいた囁きより

そうじゃない
人魚が夢みたものは
きっとささやかな反逆

気まぐれな波に流されず
激痛に耐えて自分の足で歩むこと
王女という枷のない
ただの頼りない自分で生きること
そして何より
純粋に人間を愛し生涯を終えること

それらはあ

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〔詩〕春嵐

〔詩〕春嵐

大粒の雨が降り出した午後
こんな再会は誰かの悪意
遠慮がちにかけられた声に
長すぎた時を思い知る

元気?

うん

親しげに笑ってみても
もう他人より遠い
その顔に降りかかる雨を
拭ってあげることもできない

じゃあね

じゃあ、また

守れない約束が
昔から多い人だった
もう会うことのない背中
最後まで見送りたくなくて
前髪から落ちる雫を見ていた

〔詩〕甘辛ミックス

〔詩〕甘辛ミックス

汚れなき心など持ち合わせていない
あたしは煩悩の塊

怠惰を極めるための計算も
自分を良く見せるための装飾も
無意識にやってしまう
罪悪感を抱く暇も無く

それでもあたしは人畜無害のはず
誰も傷付けたくはない
誰も貶めたくはない
向けられた敵意には応戦しても
先に矢を放つことはない

全人類とわかり合えるなんて
夢物語は信じていない
でも分かり合いたいと願う
極彩色のシロップの甘さで

〔詩〕強がりを少しだけ

〔詩〕強がりを少しだけ

笑える間は笑っていよう
洗濯してしまったメモ用紙のように
ぐちゃぐちゃになった心でも
そっとのばして
優しくアイロンをかけて

消えた文字は忘れればいい
たとえそれが大切だった言葉でも
最初から
何もなかったと思えばいい

笑っていよう
笑えるうちは
パリパリの心を撫でて
もう大丈夫って
自分におまじないをかけながら

それでも
どうしても笑えなくなったら

干からびた心を
そのまま両手で包みこん

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〔詩〕鏡よ、鏡

〔詩〕鏡よ、鏡

強がったままの午前0時前
手を振るように
鏡を拭いて
今日の私にさようなら

言えなかったことも
言ってしまったことも
キュッキュと拭き取って
終わりにしよう

くもりのとれた鏡の前で
古い歌のように笑ってみる

魔法が解けた午前0時
ぎこちない笑顔と
小さく震える唇に
忘れたい昨日が映っている

〔詩〕飛翔

〔詩〕飛翔

時が乾いた砂のように
形なく零れ落ちるものならば
逆らうのはもう止めよう
目を血走らせ
髪を振り乱しても
留める術などありはしない

記憶が濡れた砂のように
いつまでも纏わり付いても
無理に擦り落とさなくてもいい
肌が傷付き
指先に血が滲めば
また隙間に入り込まれてしまうだけ

黒く重く濡れた砂も
いつかは乾き
サラサラと零れ落ちるものだから

剥がれ落ちた記憶は
ただの過去の欠片のひとつ
もう探

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〔詩〕情熱

〔詩〕情熱

愛と恋の違いなんて
言いたい人に言わせておけばいい
そんな定義付けなんて
意味の無い言葉遊び

顔が見たい
声が聞きたい
たとえ会えなくなっても
どこかで笑っていて欲しい
この想いに
他人の付けた名前なんていらない

身を焼き尽くす熱は胸の中に
柔らかな指先で覆い隠そう
それが愛でも
恋でも
他の何かでも
灰になれば本望
躊躇いも後悔もない

〔詩〕再会

〔詩〕再会

桜の下でまた会えた

あの校舎は建て替えられ
面影も残っていないのに
歳を重ねた私たちの距離は
今もあの頃のまま

震えながら戦ってきた
投げ出さず背負ってきた
一歩ずつ越えてきた
聞かなくても分かる
言わなくても分かってくれる

過去と現在と未来の話を
ビュッフェのように味わいながら
舞い落ちる花びらに手を伸ばし
掴み損ねて笑い合う
何者でもなかった私たちは
何者でもないままで
それぞれの時を生

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〔詩〕白群

〔詩〕白群

久し振りに見上げた空は
薄雲が漂う青

繰り返す過ちも
遠ざかる夢も
もうそれでいいのだと
赦してくれるような

叱責も慰めもなく
ただ強張る体に染み込むような

広く
やわらかな青

〔詩〕雛流し

〔詩〕雛流し

遠くなる
会いたかった人も
言いたかった言葉も

追いかける情熱はない
痛むほどの後悔もない
ただ
捨てきれない過去が
薄い膜のように不意に張り付いて
息ができないだけ

遠ざかる光
もう風の音も聞こえない

叶わないことばかり漂う海に
ひとり沈んでいくのは私
海底はいつも夜
光なんて初めから届きはしない