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キャンバス #シロクマ文芸部

「春と風」
作 季節を愛する者

目の前には一枚のキャンバス。
題名と作者は、わかる。
けれどそこに描かれてあるものが僕にはわからない。
そこにあるのはただ真っ黒なキャンバスだけ。

時折人が来てはその黒いキャンバスに見入っている。
どうやら他の人には見えているらしい。
「美しい」「色がいいね」
そんな会話が聞こえてくる。

誰よりも長くキャンバスを見つめている人がいる。
僕は聞いてみた。

「ここには何が描かれているのでしょうか?僕にはただ真っ黒にしか見えないのですが」
「おや、そうですか。今あなたには季節を感じる余裕もないのですね。心に余裕がないとこの絵は見ることができないのです。最近はあなたのようにこの絵が見えない方も多いんですよ」
「そうですか…その…僕にもそのうち見ることができますかね」
「それはあなた次第ですよ」


そう言われて僕はもう一度キャンバスを見る。
もちろん真っ黒なままだ。
心の余裕…余白…
もう長いこと忘れていた感覚だった。


ここには一体どんな絵が描かれているのか。
春と風はどんな色なのか。


「僕また必ずこの絵を見に来ます」


キャンバスの本当の姿を見るために。


【おしまい】

***

今週のシロクマ文芸部でした🐨


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