僕の相棒 【#シロクマ文芸部 】
一冊の本を埋める。
でもまたすぐに僕の元へ帰ってくる。
そう。
帰ってくるには理由があるんだ。
*
友達のいない僕を心配したじいちゃんが
ある日僕に一冊の本をくれた。
外から見るとただの分厚い本に見えるが実際には中は真っ白で
どのページにも何も書かれていないようだった。
大好きなじいちゃんからもらったことが嬉しくて
僕は早速この本に自分の名前を書いた。
じいちゃんがなぜ僕にこの本をくれたのかはわからないが
とりあえず僕はこの本に僕の平凡な日常を書くことにした。
*
今日はこれをした。今日はこれを食べた。
今日は…
毎日本を開いては何か一言でもいいから書くことを続けた。
毎日書く、書く、書く。
いつしか本と僕は相棒みたいになっていた。
*
それから半年ほどして
じいちゃんが亡くなった。
僕の日記にはいつも大好きなじいちゃんがいた。
じいちゃんがいなくなってしまったことで
僕は日記を書く意味がわからなくなった。
僕は書くことをやめ、これまでの日記を読み返す。
けれど読むうちにどんどん辛くなってきた。
この日記にはじいちゃんとの思い出があり過ぎる。
ダメだ、苦しい。この本をどこか見えないところに…
そうだ。この本は埋めてしまおう。
誰にも見つからない場所に隠してしまおう。
そこで僕は穴を掘ってこの本を埋めた。
*
翌朝起きると、昨日埋めたはずの本が
僕の部屋の机の上に戻っていた。
だから今度はもっと遠くへ行って埋めた。
でもまたすぐに僕の元へ帰ってくる。
僕は困った。
もしやこの本は僕と離れたくないのだろうか…
その後何度埋めてもこの本は僕の所に帰ってきた。
どうすることもできず、結局今もこうしてここにある。
どうしたらいいものか…
僕は久しぶりに本のページをパラパラとめくる。
じいちゃんとの思い出が蘇ってくる。
じいちゃんは今もここに生きている。
そして僕の平凡で大切な日々もここに生きている。
やっぱり僕、この本を手放すことなんてできない。
最後のページにたどり着いたとき
何か字が書いてるのに気づいた。
こんなのあったかな…
それはまさしくじいちゃんの字だった。
そこにはこう書いてあった。
さすがじいちゃん。
寂しがり屋の僕にはぴったりの相棒だね。
その相棒に向かって僕は話しかける。
何度も埋めて本当にごめん。
そしていつも僕の傍にいてくれてありがとう。
こんな僕だけど
どうかこれからもよろしく。
僕らは本当の「相棒」になった。
【おしまい】
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ではまた。
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