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随想録

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「知らない」ということは、世界でもっとも美しいものかもしれない。記憶を辿る、前置きのプロローグ。ファンタジー小説や映画のような、日常に隠れた断片を探そう。
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プロローグ、それは本編前の前置き的なもの

プロローグ、それは本編前の前置き的なもの

「知らない」ということは、世界でもっとも美しいものかもしれない、とおもう。思い出せない記憶を辿る、前置きの日のプロローグ。約束、もしくは錯覚。事故にあうように、ファンタジー小説や映画のような、日常に隠れた断片を探そう。

photo by inaba keita

カバのおしり

カバのおしり

どうしても、カバを描きたかった。

こずえちゃんと歌いながら、歩いていた。

7歳の、春の遠足。

こずえちゃん、という鳥のさえずりのような名前の女の子は、まるで物語の主人公みたいにかわいらしい、大好きな親友だった。こずえちゃんは、とても明るくて、聡明で、かわいくて、前髪が短い。おかっぱがよく似合うし、声が高くて、歌が上手。朝のような、太陽のような子だった。

「一緒にうたおう」「行進ごっこしよう

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父の背中

父の背中

身体が大きく、陽気に酒を飲み続ける父の背中を眺めていた。父の特技は、お酒を飲むこと。飲んでも飲んでも、平気な顔でいつだって楽しそうだった。

父に「しあわせとは、なにか?」と質問すると、少し神妙な顔で考えたあとに「家族と友達がいて、健康に酒を飲むこと」と言った。拍子抜けしてしまったけども、しあわせの足るを知る。

小学校の頃「お父さんとお母さん、身近な大人の仕事の話を聞いて、将来の自分の仕事を考え

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わかりやすさ、を、おもうこと

わかりやすさ、を、おもうこと

「田舎のねずみと都会のねずみ」というおとぎ話をふと思い出す。

" 田舎に住んでいる一匹のネズミが、御馳走を振る舞おうと仲の良い町のネズミを招待する。二匹は土くれだった畑へ行き、麦やトウモロコシ、大根を引っこ抜いて食べていたのだが、都会のネズミは田舎の暮らしが退屈だと言い、都会へ誘う。「珍しいものが腹一杯食べられるよ。」と。

田舎のネズミは二つ返事で都会へと向かった。パンやチーズ、肉といった見た

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忘却、という美しいこと

忘却、という美しいこと

詳細の記載は避けるけれども、長年PTSDと一緒に暮らしている、とおもう。たぶん。

「オープンでいる。嘘をつかない。」

という姿勢を心掛けているものの、

誰にも言いたくないことが心の中にはたくさんある。

許せない、とおもうようなことは、

すでにほとんどなくなっていて、

嵐のように訪れる記憶と感情の再生に黙って耐える、

という日常をほどほど怠惰にやり過ごしている。

記憶というものが、

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銭湯と、昭和ドキュメンタリー

銭湯と、昭和ドキュメンタリー

湯治、という意味もあり、近所の銭湯に通い始めた。

浴場のスピーカーから流れる演歌。
水の埋め込みは、ほどほどにという手書きの張り紙。
(どうやら「埋め込み」というのは、浴槽に水を入れすぎてぬるくしないでね、という意味のよう。)

東京へ出張に行くたびに、昭和にワープするような銭湯を渡り浸かってきた。昔ながらの文化を味わえる銭湯を探すのが、ちょっとした楽しみになっている。

都会の顔をした世田谷の

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雪のひとひら

雪のひとひら

言葉では、うまく表現できない。絵を描いた時に、風の音や葉っぱのにおいや、そのときおもっていたことをうまく表現しきれないのとおなじように。

子どもの頃、雪を眺めているのが好きだった。

雪の結晶は、よく見るとすべてちがうカタチをしている。

ポール・ギャリコの『雪のひとひら』のように、彼らが恋をするのかどうかはわからないけれど、ただただ真っ白にどこまでも続いていくように見える雪原は、ぜんぶちがうカ

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なみだはミルクのにおいがする

なみだはミルクのにおいがする

傷つくのは、ずるい。

だって、勝手に傷ついてるだけなのだもの。

傷つけるほうは、傷つけるほうで、良いことではない、とは思うけれど。

なみだは、ミルクのにおいがする。

まくらからも、ふかふかのクッションからも、ミルクのにおいがただよってくる。

こぼしたなみだをためて、ホイップしたら、たっぷりと甘ったるいミルクケーキができそう。

ミルクをこぼしたような流れの天の川。

いきるものたちの流し

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雪はやがて消えて、また春がやってくる

雪はやがて消えて、また春がやってくる

「あれは、ネコヤナギ。」

「木にねこが生えているの?」

いつまでも溶けない雪と春らしさのあいだで、時間がゆっくりすすむ季節。

北国の四月のはじめ。

おばあちゃんが、手をつないで、歩きながら植物のなまえを教えてくれる。

わたしは、二歳で、まだ歩くことを覚えたばかり。

ネコヤナギ、

チューリップの球根とクロッカス、

すずらん、

木苺、

アスパラとにら、

真っ赤なほおづきと赤トンボ

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