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なみだはミルクのにおいがする

傷つくのは、ずるい。

だって、勝手に傷ついてるだけなのだもの。


傷つけるほうは、傷つけるほうで、良いことではない、とは思うけれど。


なみだは、ミルクのにおいがする。


まくらからも、ふかふかのクッションからも、ミルクのにおいがただよってくる。

こぼしたなみだをためて、ホイップしたら、たっぷりと甘ったるいミルクケーキができそう。

ミルクをこぼしたような流れの天の川。

いきるものたちの流したなみだは、天の川に流れていくのかもしれない。

甘ったるい香りに満ちている小さな部屋で、布団に包まりながら、そんなことを思ったりした。


気持ちなんて厄介なものを、どうしてヒトはまだ保有しているのだろう?

なぜとかどうしてというのは、意味のない問いだとあたまが拒む。

あたまの奥にある深い、深い部分が、声をあげていて、うるさいな。


「なぜとかどうしてというのは意味のない問いだよ」と、重く甘ったるいミルクを身体の奥まで流しこむ。

幼い子どもをなだめるように、「落ち着いて、大丈夫だから。」

麻酔の様に、重いもので、身体をしずめて。

少しずつ、少しずつ、鈍くなっていく。


もうすぐ夜が明ける。


夜明け前の薄い青色が、眠りへといざなってくれるだろう。







photo by inaba keita

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