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◼︎詩、たまに小説◼︎

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2020年5月の記事一覧

実験室 (1)

1 カーテンの向こうにあるのは実験室だが、 そこでは道とか船とか林とか、 そんな類のものしか生み出せず、 役立たずとか言われているようだ。 いや、自分でも言ってしまった、 この文章の詩的なくだり、 太陽にも海にも似ているが、 唯一、人にだけ似ていない、 だから安心して馬鹿にできるよ。でもしないでね。悪戯。 (了. 詩1のみ)

作り出された風景、複数の意味【小説】

私はときどき、自分の頭がおかしいのではないかと感じる。というのも、私の書く文章が、まるで意味の伝わらないものであるように、自分自身、思われる時があるからだ。例えば、なぜアヒルが鳥なのか、なぜ雲の中に街があるのか、また、なぜ雲は手が届かないのか。こういった点が、ひょっとしたら読者にとっては不可解なことかもしれないのだ。私自身、いま、自分にとって非常に奇妙なことを書いている。前提と思っていたそれらが、ひょっとしたら読者と共有されていない可能性がある、と、自分でもまさかとは思いなが

短編小説: The Forest

<はじめに> Rusty Lake (ラスティ・レイク)というゲーム・シリーズにインスパイアされて、そのオマージュとも言えるような小説を僕が独自に書いてみました。(内容に直接の関係は一切ありません。つまり、二次創作ではありません。オリジナルです。) Rusty Lakeを知らなくても楽しめます。それどころか、僕が普段書いている詩や小説よりも内容がずっとわかりやすく、むしろ今回の小説の方が万人に向けられた作りをしているくらいです。 ***** The Forest (森

機械の森林における目的と、その製造【小説】

「庭を作る機械」は、森林を作るためにあるようだ。アヒルたちが持ち帰った手紙には、そのようなことが書かれていた。私の傍らでいま庭作りに勤しんでいるこの機械は、森林を作るのが主目的のようなのだ。この大陸は、辺りが一面だだっ広い荒野であり、ここに森林を作るとなると、それこそ大量の種と言葉が必要になる。 この機械が庭を作っているのは、端的に言えば、アヒルをおびき寄せるためである。そのことは私にもわかる。この機械が、言葉や文章のようなものを日々大陸の大地に刻印しているその内容は、私に

庭を作る機械【小説】

庭を作る機械がある。この機械は、木陰にあった。木陰にて、たいていの機械がそうであるように、大人しそうにしていた。この機械は私の傍らで、なにか私にはよくわからない事情で稼働していた。この機械はいつも、大陸の地面になんらかの言葉を刻印していた。その言葉はたいてい私の興味の対象にならなかったが、地面とともに後方に流れ、言葉の川を日々形成していく様は、一種の景観であった。 この機械にはいくつか用途があるはずで、というのも、ハンドルだとかレバーだとか、そういったものが付いているからな

アヒル・メイキング

ケーキがある。このケーキはたぶんアヒルのものだった。ケーキの尻尾に羽毛が付いていたからだ。 「ちょっと待って。また意味不明の文章にするつもり?」 そうだけど。なにか問題ある? *** ここで二択がある。①私はアヒルだった。②私はケーキだった。どちらにするか迷っていると、新案を思いついた。私は尻尾だった。それだ。それでいこう。私は、私に付いた羽毛に、ケーキを食べさせた。 さて、ここで問題が生じる。もし、論理的に考えるのであれば、先に「ケーキの尻尾」という言葉があるので

アヒル・ファンタジー

庭から来たアヒルが、言葉を教えてくれた。成長するための涙、そんなものを言葉に変えて飾っていたらいいね、いつか誰かに盗まれるように、と。朝とも夜ともつかない一日に、雲が地面すれすれを飛んでいたので、アヒルの後を言葉が付いて雲の中に消えたようだ。木陰にある機械に言葉を噛ませ、なぜアヒルが雲の中に消えたのか、アヒルはなぜ言葉を伴うのか、それを説明させた。機械にはそれが説明できるか? それが気になった。機械は説明した気になってはいたが。雲の中には恐らく街がある。その街には僕らーーアヒ

「Y・イー」

プリエスタン。“貧モナ”の都と日常。“貧モナ”は、赤いカーテンと白い憂鬱で覆われた「半球ヘモスフィア」であった。プルグノーザは、一から八まで全て頭の中で言語を構築出来た。だからここで商業に困る事はなかった。デルモから届いたコンテナには、真新しい「白い言葉」が満載されていた。生活に言葉は必要ない。ただ、商売するのに必要だった。彼は“pQエイド”でこれらの言葉を加工し、市場に出荷していた。街の邪悪。透明の日常。無垢の言葉はここでは生きられない。不遜と、もしくは無粋と分かっていても

蓄音機(3、4)

3 何かを分かろうとしてつまづき、 返事を保留して、 走り去った跡がある。 その言葉の遺跡には、 文明になれなかった君の、 美しすぎる醜態が、 読者に勇気を与えていたよ。 たしかあれは花だった。 まだ呼ばれたことのない君の。ありもしない名前。情熱。 4 聞きなれない挨拶に戸惑いながら、 もう何十年も経ったのかな、 あれはたしか朝だった、 きみの言葉がまだ普通だったから。 普通だと美しい、 普通じゃないと、 ま、 それも美しい。 小春の戯言ばかりに価値がある、 音