#5 カフカ短編『歌姫ヨゼフィーネ、またはハツカネズミ族』
『歌姫ヨゼフィーネ、またはハツカネズミ族』は、こちらの短編集の最後に収録されていた作品。
1. はじめに
カフカの簡易な年表を見ていると、41歳の時『歌姫ヨゼフィーネ』を書き、雑誌に発表とされている。その後死去。こちらはカフカ最後の作品となるようだ。
この作品もまた不思議だった。
きっと、カフカの背景に関わってくるものなんだろうし、色々な読み方があるんだろうけれど、私は特にカフカ研究をしているわけでもないし詳しいわけでもない。だから解釈を求めようとは思わず、単に楽しもうと思って読んだ。けれど…やっぱり気になってそうもいかなかった気も……。
2. ストーリー
ハツカネズミ族にとってヨゼフィーネは魅力的な歌姫。誰もがヨゼフィーネの歌声に心を奪われるのだ。
そもそもハツカネズミ族は音楽が好きではない種族らしい。彼らの生活と音楽は根付いていない。でもヨゼフィーネだけは例外。音楽が好きで音楽をみんなに伝えることができる(どうやらヨゼフィーネもネズミのようだ)。
どうして音楽的でないハツカネズミにとってヨゼフィーネの歌だけは魅惑されるのだろうか。そもそもそれは歌といえるのだろうか。
この物語は、そんな謎について、あるハツカネズミの視点から語られる。自分たちハツカネズミ族のことや、歌姫ヨゼフィーネのことを語っていくのだ。
3. 感じたこと
読んでいて、はじめはカフカから見た芸術家像(ここではヨゼフィーネ)を語っているのかなと思ったんだけれど、実は逆で、世間(ハツカネズミ族)から見られているであろう自分(ヨゼフィーネ→芸術家カフカ?)を描いているのかなとも思ったりした。
と考えると、これが最後の作品だ言うのも分かるような気も…。
上記に引用した「その時」とは「死」だろうか…?
結局、なぜヨゼフィーネの歌にこんなにも魅惑されていたのかははっきりとは分からなかったが、この物語を語るハツカネズミは次のように憶測していた。
最後、ヨゼフィーネはハツカネズミ族の前から姿を消す。突然に。
まるで、カフカ自身がこれから世間から姿を消すように。
もしヨゼフィーネをカフカ自身として描いたのであれば、彼は姿を消してからなお有名になったわけで、ハツカネズミが述べたこととは反して、その存在を忘れられることがない作家となっていることとなる。
4. さいごに
カフカの短編って一筋縄でいかないものが多く、その人なりの読み方ができる。だから、一つの作品に多くの解釈がまとう。カフカの作品を読んだ読者によって、また別の作品が生まれる感じだ。どう読んだって自由だと思うから。それに、また数年後読み返したら、全く別のことを思うかもしれない。
いちいちじっくり考えちゃうから大変だとも思う。でもその大変さが魅力で面白かったりする。引き続き読んでいこう。