展覧会レポ:京都市京セラ美術館「村上隆 もののけ 京都」
【約4,800文字、写真約65枚】
京都市京セラ美術館で開催されている「村上隆 もののけ 京都」を鑑賞しました。その感想を書きます。
結論から言うと、1)9割以上が新作・大規模な村上隆の個展のため、現代アートが好きな人は必見、2)キャッチーな作品が多く、写真撮影可能で楽しい、3)"鑑賞"を忘れないように注意、4)村上隆の考えや「スーパーフラット」について、端的に分かる工夫があればなお良かった。
▶︎訪問のきっかけ
村上隆は、日本発で世界の現代アートシーンで説明不要なほど有名な人物です。現代アートが好きな私は、過去にさまざまな場所で彼の作品を見たり、彼の著作を読みました。現代アートに一石を投じ、日本のアンシャンレジームを批判・改革しようとする人柄、考え方に興味がありました。
入場料を払わなくとも《阿吽像》を見ることができます。作品も壁面もド派手なので、フォトスポットに最適です。
私は京都市京セラ美術館の「東山 cube」に初めて入りました。「東山 cube」は2020年の美術館リニューアルの際、現代の文化芸術シーンを紹介するために造られたらしいです。
▶︎「村上隆 もののけ 京都」感想
展覧会の特徴は、村上隆の国内8年ぶりの大個展(公の美術館で23年ぶり)、約160点以上の新作を含む約170点であることです。
作品の多くに「新作」マークが付いていました。個展のキャプションで「新作」という表記を見たことは初めてかもしれません。新作が多いことは、村上隆と「京都市京セラ美術館」の事業企画推進室ゼネラルマネジャーの高橋信也氏との関係の深さの賜物らしいです。
展覧会のテーマは、京都と村上隆の考える歴史が高橋氏の中でミックスされたもの。《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》も高橋氏の依頼で作成されたそうです。「新作」マークの表記からも、展覧会の背景や特徴が透けて見えます。
この展覧会で面白い点は、村上隆の「注意書き」「言いわけ」作品が複数あることです(これらの"作品"も将来的に売買されるのでしょうか…?)。
元々「言いわけ」作品を構想していたのか、未完成の作品が多いから「言いわけ」作品を作ろうと思ったのか、発端は分かりません。しかし、これらは私にとって、とても有益でした。キュレーターなどの言葉よりも、アーティスト本人の言葉が最も参考になるからです。
この展覧会は、会期中に制作が間に合わなかった新作がどんどん投入されるため、複数回行っても楽しめると思います。
「注意書き」作品の中で、特に印象に残った言葉があります。
この展覧会を1度見ただけでは「映える、かわいい、面白い、迫力がある」で終わる可能性が高いと思います。なお、村上隆は「スーパーフラット」という概念をもち、そのコンセプトから全てがスタートしています。
村上隆の著書『SUPERFLAT』で、敗戦後の日本を主題に、オタクカルチャーやキャラクター文化と日本の美術史を結びつけて説明しています。彼はその中で「ハイアートも権威もサーもセレブレイトもカーストも無い日本文化の中の『芸術』」と語っています。
また、同著内で、美術と大衆芸術の位置関係がフラットであるという考え方や、戦後社会・日本社会における階級の均一性をに言及しています。
村上隆のキャッチーな作品は、写真を撮らずにはいられません。この展覧会では、撮りたい写真が多すぎて、中々前に進めませんでした。来場者は皆、楽しそうに作品を撮影していました。
しかし、この点は悪い側面もあると思いました。来場者のほとんどは、写真を撮ることに没頭しており、中には作品を背景に記念撮影している人も多数いました。作品に近づいてマチエールまで確認するなど、作品を集中して鑑賞している方は少数でした。
その意味では、古典とオタクカルチャーが融合した村上隆の作品を、美術館の中で違和感なく楽しむ来場者の姿は、まさに「スーパーフラット」の一面なのかもしれないと、展覧会を”反芻”してようやく見えてきました。
全体を通して、多くの村上隆の新作を見ることで満足感はあったものの、一度見ただけでは、どこかしっくりこない感じが残りました。
私は基本的に「現代アートは面白ければええやん派」です。しかし、村上隆は、ただキャッチーでkawaii絵を描いているのではなく、緻密で深い考えと戦略があります。それらを理解して鑑賞することで、より「面白い発見(=ユーリカ)」が得られると思います。
会場のウキウキした雰囲気の影響もあり、私は会場内でこれといった示唆を得られなかったのが正直な感想です。"濃い"作品が多いことも理由の一つかもしれません。そのため、難易度が高い展覧会だと思いました。
ほとんどの来場者は「考える」ことなしに「面白かった」で終わっているようでした。その浮ついた雰囲気も、私がしっくりこなかった理由の一つです。私は、帰宅後に”反芻”することで、おぼろげに気付きを得られました。
そのため、会場内で村上隆の考えをより丁寧に説明する取り組みがあれば良かったです。「注意書き」「言いわけ」作品は、素晴らしい取り組みだと思います。ただし、読みづらい!😵 手書き風、色が多い、横のストロークが長い、罫線がない…。多くの来場者はしっかり読んでいませんでした。
村上隆がこの展覧会について話した動画(or 過去インタビューの編集)を出口付近に展示するなどした方が、来場者の理解はより深まると思いました。
ちなみに、暗い部屋で看視員の方に「カメラの赤外線は、作品に影響があるため止めてください」と言われました。カメラから出ていた赤い光は、AF補助光です(赤い可視光で、赤外線ではない)。作品に影響はないと思いましたが、1mmくらいモヤモヤしながらも、看視員の指示に従いました😑
村上隆のグッズは、いつも通り高額でした。例えば、ポストカードは240円、一般的なポストカードより1.5〜2倍の値段です。村上隆の作品はコストが高く、展覧会の開催約2ヶ月前に億円単位で費用が足りないと分かったくらいなので、高いグッズ代も3mmくらいは納得感がありました。
また、高いグッズ代と同様に、入場料は2,200円と比較的高額でした。ふるさと納税を活用し、京都市内の学生、もしくは京都市内に通学している学生は入場料が無料とのこと!素晴らしい取り組みです。
なお、紙の作品リストはないとのことでした(HPにも見当たりません)。リストがない展覧会はほぼ初めてかもしれません。作品が入れ替わるため、管理しきれないことが理由でしょうか?
▶︎まとめ
いかがでしたでしょうか?キャッチーな作品が多く、写真撮影も可能のため、シンプルに楽しいと思います。また、村上隆の歴史に残る大規模な展覧会のため、現代アートが好きな人は必見です。なお、写真撮影に必死になって、"鑑賞"を怠らないように注意が必要だと思いました。私は、帰宅後に"反芻"することで「スーパーフラット」の理解を若干深めることができ、さらに村上隆について知りたいと思いました。
▶︎今日の美術館飯
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